藤井聡太は本棋戦参加4期目にして、初の優勝達成。17歳のときにはまだ初々しかった和服姿も、いまでは風格すら感じさせる(写真:将棋日本シリーズ総合事務局提供)
藤井聡太は本棋戦参加4期目にして、初の優勝達成。17歳のときにはまだ初々しかった和服姿も、いまでは風格すら感じさせる(写真:将棋日本シリーズ総合事務局提供)

 将棋界の若きスーパースター・藤井聡太五冠が、名誉をまた一つ手にした。将棋日本シリーズJTプロ公式戦で最年少優勝。「レジェンド」羽生善治九段の記録を超えた。AERA2022年12月5日号の記事を紹介する。

【写真】優勝後、子ども大会の参加者を見送る藤井聡太

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 将棋日本シリーズJTプロ公式戦はトップ棋士12人が参加し、日本全国を転戦する早指しのトーナメントだ。

 11月20日、千葉市の幕張メッセ国際展示場での決勝戦で、藤井聡太竜王(20)は114手で斎藤慎太郎八段(29)を下し、初優勝を飾った。

 誰もが大本命と目する現代将棋界の第一人者が、下馬評通りの実績を残した。今大会を簡単にまとめれば、そういうことになるだろう。とはいえ、その第一人者はまだ弱冠20歳だ。

■意識はしていなかった

 1991年。当時棋王位を保持していた羽生善治(52)は21歳で本棋戦優勝を果たした。現代の目で見ても驚異的な最年少記録であり、以後、長きにわたって破られることはなかった。そこに常識外の強さで将棋界の主たる記録を塗り替え続ける藤井が登場し、また一つ、羽生の記録を更新することになった。

 記者会見におけるいつもの定跡通り、藤井は自身がほとんど意識していない史上最年少記録更新について尋ねられる。藤井は笑顔で、次のように答えた。

「たしか今年が最年少のラストチャンスと、たぶん北海道大会(2回戦)のときにちらっとうかがって。今日(決勝)はまた忘れていたんですけど(笑)。そうですね。たしか今年が更新できる最後の機会だったということで。特に対局に臨む上では意識はしていなかったんですけど。結果的によい結果を残せたことはうれしく思います」

 反対側の山から決勝にまで進んできた斎藤は、渡辺明名人(38)、永瀬拓矢王座(30)とタイトルホルダーを連破している。そして最終戦で迎えるのが藤井とは、どこまでいっても楽にならない。

 決勝戦。斎藤は先手で角換わりを選んだ。藤井はいつもと変わらず、どんな戦型でも正面から受けて立つ。

 将棋日本シリーズはさまざまな特色がある一大イベントだ。プロ同士の対局の前に、多くの少年少女が参加する大会が開かれるのも長い伝統となっている。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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