Mary C.Brinton/ハーバード大学の日本研究所である「ライシャワー日本研究所」所長。2003年からハーバード大学で教授を務める。おもな研究テーマは、ジェンダーの不平等、教育、日本社会など(photo 写真映像部・上田泰世)
Mary C.Brinton/ハーバード大学の日本研究所である「ライシャワー日本研究所」所長。2003年からハーバード大学で教授を務める。おもな研究テーマは、ジェンダーの不平等、教育、日本社会など(photo 写真映像部・上田泰世)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【写真】メアリーさんの著書『縛られる日本人 人口減少をもたらす「規範」を打ち破れるか』はこちら

『縛られる日本人 人口減少をもたらす「規範」を打ち破れるか』は、メアリー・C・ブリントンさんの著書。家庭内の性別的役割分担について、女性の就労と出生率の関係について……。日本、アメリカ、スウェーデンの子育て世代へのインタビュー調査と国際比較データを分析することで、意識と現状をあぶり出す。とくに「男性の育児休業」については多くのページを割いている。「スピード感を持って変えていくには、徹底した義務化は必要だと思います」と話すブリントンさんに、同書にかける思いを聞いた。

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<日本とアメリカでは「家族」の定義が大きく異なる>

<アメリカでは、妻の産後の里帰りも一般的ではない>

『縛られる日本人』での記述に、何度もハッとさせられた。著者は、ハーバード大学ライシャワー日本研究所所長であるメアリー・C・ブリントンさん。膨大なデータと日本の若い世代へのインタビューを通して、いまの日本社会の姿を丁寧に紐解いていく。

 なぜ日本では男性がなかなか育児休業を取らないのか、なぜ出生率も幸福度も低いのかといった、日本社会の問題を鋭く指摘しながらも、語られる言葉や根底にある眼差しは穏やかで温かい。

「日本では、産後に妻が実家に戻るケースが多いと知った時は驚きました。アメリカ人はそうした行動には出ないこともあり、なぜ新生児の子育てを夫婦でシェアするのではなく妻の親を頼るのか、それはおかしい、と感じたからです。けれど、アメリカの若い世代も本音で言えば『実家を頼りたい』という気持ちがないわけではない。アメリカのカップルを見ていて、そう感じるようになりました」

 日本の男性が周囲の目を気にして育児休業を取得できずにいることへも理解を示す。

「私自身、何カ月も職場を離れた後、戻る日のことを想像するだけで怖いですし、緊張もします。『男性だから』ではなく、一人の人間として、周囲の目を気にするのは仕方がないことだと思います」

 そのうえで、変革に必要なのは「スピード感」だと考える。一気に数が増えることで、「前例があるから、自分もできるかもしれない」と思えるようになる。人々の考えを直接的に変えていくことは難しい。けれど、一人一人の行動が変われば、社会全体の考え方も変わっていく。特に日本人にはそうしたスタイルが合っているように感じるという。

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