AERA 2022年11月21日号より
AERA 2022年11月21日号より

■時代の波すくい取る

 一種の「夜遊び」のようなものではないか。命名の由来だ。近年、一般的なビジネスパーソンにも「兼業」や「副業」が浸透しつつある。YOASOBIのネーミングは、そうした時代の波をすくい取っているのだ。 ボーカルのikuraに目をつけたのも、彼だ。彼女は、シンガー・ソングライターである。

「小説を音楽に組み替えてアウトプットするなど聞いたこともない。物語の主人公はどんな感情を抱いているのか、その人になりきることにしました」

 と、ikuraは、あるインタビューで語っている。

 チームを組んだ4人は、グループLINEを使って、屋代が「思考停止するくらい」と表現するほど、何時間にもわたって議論を交わし、およそ3カ月かけて原作の星野舞夜作「タナトス(注・ギリシャ神話に登場する死神)の誘惑」の若い男女のストーリーをもとに歌詞をつくり込んでいった。

 山本は、次のように振り返る。

「Ayaseには強い思いがあったし、すごい努力をするタイプだから成長する。ikuraもそうですね。YOASOBIが爆発的にワッといったのは、そうした思いや努力や才能が掛け算され、とてつもない熱量が生じたから。それが、僕たちが提供するものにうまくハマった」

 昭和世代は、YOASOBIの曲はアップテンポ過ぎて、歌詞がうまく聞き取れない。雑音、騒音……にさえ思える。お手上げだ。

 それでも聞いていると、ゲーム、アニメのシーンが頭の中に断片的に浮かんでくる。これが今流の音楽か……。

 ♪沈むように溶けてゆくように

 二人だけの空が広がる夜に──

「夜に駆ける」は、イントロなしでいきなり始まる。小説の音楽化だから、1番とか2番とかの区切りがない。延々と詞が続く。「明けない夜に落ちてゆく前に」「二人でいよう」「君の為に用意した言葉どれも届かない」──。ikuraの透き通った歌声とテンポの良いリズム。YOASOBIの数々のヒット曲は、魂の叫びとは異なる。時代に抗議するでもない。先を見通せない、生きづらい「今」の時代の若者たちの不安や寂しさ、焦りの中で揺れ動く心情に寄り添う。(文中敬称略)(ジャーナリスト・片山修)

AERA 2022年11月21日号より抜粋