陸上自衛隊が保有する国産のミサイル「12式地対艦誘導弾」の発射装置。政府は現在、射程を1千キロ程度に延ばす改良を進めている/2021年4月、鹿児島県奄美市
陸上自衛隊が保有する国産のミサイル「12式地対艦誘導弾」の発射装置。政府は現在、射程を1千キロ程度に延ばす改良を進めている/2021年4月、鹿児島県奄美市

 1991年の湾岸戦争ではイラクが弾道ミサイル「アル・フセイン」88発を発射した。米空軍はミサイル発射地域であるイラク西部上空に1日平均64機を出動させ、発見に努めた。だがミサイル発射後の簡易発射台は壊せても、発射前に破壊できたのは1発だけ。潜伏していた特殊部隊への補給に夜間飛行していたヘリコプターがミサイル発射の火柱を目撃、そちらに向かったところ付近で他の1発が発射準備をしているのを発見、ドアからの機銃射撃で処理したという偶然の手柄だった。

 航空自衛隊は青森県三沢市の射爆場で対地攻撃訓練をしているが、決まった地点に見やすいように設けた標的を狙うから肝心要の目標探知の困難は知らずに攻撃装置を欲しがっているように思われる。

■目標まで20分は要する

「トマホーク」は70年代から米国の潜水艦の魚雷発射管から発射するために開発され、水上に出るとロケットで上昇した後、翼を広げてジェットエンジンで飛行する巡航ミサイルだ。当初は20万トンの爆薬に匹敵する威力の核弾頭を搭載したがそれは91年に廃棄され、対艦船用のタイプも退役、射程1600キロで通常爆弾を付けた対地攻撃用が潜水艦、水上艦に搭載されている。レーダーで地形のデータと対照し、GPSも使って時速880キロで目標に向かう。価格は約2億円とみられる。

 湾岸戦争では288発が潜水艦、水上艦から発射され、その後もイラク、セルビア、アフガニスタン、リビア、シリアで使用され、英国の原子力潜水艦も搭載している。

 だが日本が「トマホーク」を輸入しても「敵基地攻撃」をして日本を狙う相手の弾道ミサイルや巡航ミサイルを破壊する役に立つ状況は考えにくい。北朝鮮の弾道ミサイルは主として同国北部山岳地帯のトンネルに移動式発射機に載せて隠されていると見られる。それが出てきてミサイルを直立させ発射をしようとすることがもし分かったとしても、北朝鮮沖の日本海で待機中の潜水艦に「トマホーク発射」の命令が出るまで若干の時間がかかるし、目標まで約306キロの距離があるから時速880キロで20分は要する。北朝鮮の旧式の液体燃料ミサイル「ノドン」なら発射準備に約1時間はかかったろうが、新型の固体燃料ミサイルは即時発射が可能で「トマホーク」が届く前に発射していることは十分起こりうる。

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