小説家・森山光太郎さん(photo 本人提供)
小説家・森山光太郎さん(photo 本人提供)

 平凡な日々から一瞬でも逃れたい──。そんなときに一冊の本を手にすれば、人生や生き方の道標になってくれる。小説家・森山光太郎さんが「歴史」にタイムトリップできる本10册を紹介する。2022年11月14日号の記事から。

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 歴史小説は、作家が歴史上の事実を自分なりに解釈してつくり上げたフィクションで、作家のイマジネーションを投影した作品です。作家の想像力に共感しながら、その時代を覗(のぞ)き見ることができるものだと思います。

『火定』は、まさにそんな一冊です。天然痘に見舞われた奈良の都が舞台で、医療は崩壊し、人々は噂(うわさ)に翻弄(ほんろう)されます。いまのコロナ禍と被(かぶ)ると同時に、奈良時代の人々の生活や、パンデミックに直面した際の人間の業を知ることができます。

『火定』/澤田瞳子/PHP研究所
『火定』/澤田瞳子/PHP研究所

『破軍の星』は、複雑な南北朝時代を若き公家・北畠顕家の生き方を通して描いています。彼の迷いながら生きている姿を読むと、勇気ももらえます。

 安土桃山時代を描いた『織田信長』と『二流の人』は、あわせて読んでほしい作品です。前者はいわずと知れた戦国の武将・織田信長の少年時代から本能寺の変までを描いた長編。後者は信長と豊臣秀吉の2人の天下人に仕えながら、彼らからその才を恐れられた黒田如水の物語です。なぜ信長が天下を取ることができ、黒田はできなかったのか──。2作を読み比べるとわかると思います。

『織田信長』/山岡荘八/講談社
『織田信長』/山岡荘八/講談社

 幕末が舞台の『燃えよ剣』と『ラ・ミッション』も、セットで読んでほしい作品です。前者は、新選組副長を務めた土方歳三を通して、滅びの美しさを。後者は、土方の傍らで幕府の滅びに立ち会ったフランス陸軍士官ジュール・ブリュネを通して滅びの現実が描かれており、外国人の目を通し、より深く幕末の日本人を知ることができます。

『十字軍物語』はウクライナ問題がある今、ぜひ読んでほしい一書です。中世のヨーロッパが舞台ですが、なぜ戦争が起きるのか、戦争を起こす人間の感情を追体験できます。

 歴史小説はフィクションだからこそ、自分のこれからの人生や生き方の道標にもなってくれます。そんなコンパスになる本をたくさん見つけてください。

(構成/編集部・野村昌二)

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