小説家・伊東潤さん(photo 本人提供)
小説家・伊東潤さん(photo 本人提供)

 知らない世界に行ってみたい──。そんなときに一冊の本を手にすれば、人生が豊かにになる。小説家・伊東潤さんが、本の中で外国旅行ができる10册の小説&ノンフィクションを紹介する。2022年11月14日号の記事から。

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 知らない世界を知ることは大事なことで、人生を豊かにしてくれます。それができるのが、ノンフィクションであり小説だと思います。

 いま最も旬な国・地域の一つが台湾です。そこでまず選んだのが『台湾海峡一九四九』。台湾文壇の重鎮でもある著者が、ドイツに住む息子に、台湾海峡を隔てた土地で繰り広げられた数知れない生と死、別れを語ります。それは決して抽象的な歴史ではなく、体験してきた人々の証言を通した一つの時代。中国と緊張関係にある台湾を感じることができます。

『台湾海峡一九四九』/龍應台/白水社
『台湾海峡一九四九』/龍應台/白水社

『死に山』もそうです。1959年の冷戦下のソ連で起きた、遭難事故の真相を描くノンフィクション。不思議な超常現象や数々の謎が描かれていますが、私が興味を引かれるのは、50年代後半のソ連の若者たちがアメリカの若者と同じように生き生きしている姿です。50年代のソ連なんてまったく未知の世界。それがこの本を通して、当時のソ連の政治体制から、若者の考えまで伝わってきます。

『キャパの十字架』はスペイン、『宿命』は北朝鮮、『鯨人』はインドネシアです。優れたノンフィクションは、その国の文化や人々の暮らし、さらには風土まで知ることができます。

 小説では『冷血』がお薦め。59年にアメリカのカンザス州の片田舎で起きた一家4人惨殺事件を題材にしています。犯罪の冷酷さを痛感しますが、同時にアメリカへの思いを掻き立ててくれます。アメリカと言えば、ニューヨークのような大都市を想像しますが、大半が物語に出てくるような田舎町。どこまでも続く平原などアメリカの原風景を肌に感じる一書です。

『笑う警官』は警察小説の金字塔と言われる作品です。私はミステリーがすごく好きですが、この本は特別。スウェーデンの裏町のすえた空気の匂いまで描写していて、角を曲がると主人公の警察官マルティン・ベックが現れそうです。

『ジャッカルの日』はフランスのドゴール元大統領暗殺をテーマにした小説で、フランスの片田舎の田園風景まで目に浮かびます。

 楽しみながら、本の中で、外国を旅してください。

(構成/編集部・野村昌二)

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