「食べる」と「生きる」はつながっている。人が笑っている顔を見たいから、枝元はキッチンに立つ(撮影/植田真紗美)
「食べる」と「生きる」はつながっている。人が笑っている顔を見たいから、枝元はキッチンに立つ(撮影/植田真紗美)

 料理研究家、枝元なほみ。捨てられる食べ物がある一方で、今日の食事に困る人がいる。「夜のパン屋さん」は、そんなねじれを解消する取り組みだ。売れ残ったパンを集め、ビッグイシューの販売員が販売する。この「夜パン」の発起人が、枝元だ。台所から見えてきたのは、フードロスや農業、貧困などの社会問題。女性に押し付けられる理不尽さをかわしながら、未来をつくりだす。

【写真】神楽坂の「かもめブックス」の軒先で週3日開く「夜のパン屋さん」

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 真っ赤に熟れたトマト、みずみずしいキュウリやナスと、旬の野菜で彩られたサラダやマリネ。カリッと揚げたてのカボチャ、フライパンで炒めた空心菜には生ハムとチーズの欠片を入れたオリーブオイルを隠し味に。キッチンに立つ枝元(えだもと)なほみ(67)は「今日はB品の集いなの」とほほ笑む。

 8月末、東京都港区のマンションを訪ねると、枝元は手料理でもてなしてくれた。知り合いの農家から取り寄せたのは、形や色が不揃(ふぞろ)いで「B品(規格外)」とされる野菜だが、滋味あふれる格別の味。枝元は無農薬栽培で手をかけて作る生産者に思いをはせる。「本当においしいものを食べると、力をもらう感じだよね」と。

 料理の世界では「エダモン」と親しまれ、テレビや雑誌で活躍。その活動は「料理の人」にとどまらない。「チームむかご」を立ち上げて、流通にのらずに捨てられてしまう食材を広める取り組みをする。近年はNPO法人「ビッグイシュー基金」の共同代表を務め、生活に困窮した人たちがパン屋で売り切れなかったパンを販売する「夜のパン屋さん」をスタート。今年10月には、キッチンから食べ物と向き合う視点でフードロスを考える『捨てない未来』を上梓(じょうし)した。

「フードロスとは、そもそも社会システムの問題なのに、家庭やキッチンにいる女に押しつけられるのはおかしい。男たちは知らん顔しているけれど、『なめんなよ!』と思う」と枝元の鼻息は荒い。

 日本の農業の未来を憂い、貧困問題にも熱いまなざしを注ぐ「エダモン」。ふんわり柔らかな物腰に潜むパワーはどこから生まれているのだろう。

 枝元なほみの「なほみ」は、本名「菜穂美」だが、姓名判断を調べて、ひらがなにしたという。

「漢字で書くと、『内助の功を尽くす良妻賢母』タイプ。ひらがなで書くと、『淫乱のパッパラパー』。どっちが楽しいかといったら、淫乱のパッパラパーでしょう。内助の功なんて絶対あり得ないもの」

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