「怪と幽」編集長 似田貝大介さん(photo 首藤幹夫)
「怪と幽」編集長 似田貝大介さん(photo 首藤幹夫)

 日常から逃れたいなら、非日常を味わえる読書がおすすめ。この秋、一冊の本を手にし、未知なる世界の扉を開けてみてはいかがだろう。「怪と幽」編集長・似田貝大介さんが「見えない世界」を探訪する本を紹介する。2022年11月14日号の記事から。

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■怪談・妖怪を探訪しよう

「怪と幽」編集長・似田貝大介さん「『見えない世界』味わいつくす」

 怪談、怪異、恐怖、妖怪。時には見えない世界に触れてみてはどうでしょう。

 まずは怪談や妖怪が生まれる「種」を紹介します。『事故物件怪談 恐い間取り3』は事故物件住みます芸人の松原タニシさんの人気シリーズの最新作です。誰しもワケあり物件は気になりますが、この作品は単に恐怖をあおるものではありません。家に染み付いた人の想い、においに真摯に向き合うルポです。

 ラフカディオ・ハーンの『怪談』は数々の名訳によって古典となりましたが、訳者の円城塔さんはあえて「直訳」しました。ハーンが見た風景と当時の読者が受けた驚異を感じます。

 実は恐怖を文章で表現することは、とても難しいのです。若手のホープ・澤村伊智さんの『怪談小説という名の小説怪談』は、恐れ・不安・不快といったさまざまな恐怖が詰め込まれた短編集です。筆者が腕によりをかけたフルコースを堪能できます。

『怪談小説という名の小説怪談』澤村伊智/新潮社
『怪談小説という名の小説怪談』澤村伊智/新潮社

 実体験をもとに描かれる「怪談実話」で注目されているのが、ご当地怪談です。『沖縄怪談 耳切坊主の呪い』からは沖縄独自の信仰や歴史が見えてきます。

 近頃はキャラクターとして親しまれている妖怪ですが、そもそも妖怪とは何でしょうか。『丹吉』に登場するのは、化け狸の丹吉をはじめ、ヘビやウサギ、ネコなどの動物です。ユーモアあふれる冒険談でありながら、妖怪や神仏が生まれる信仰の本質に迫っています。

『丹吉』松村進吉/KADOKAWA
『丹吉』松村進吉/KADOKAWA

 台湾では妖怪ブームが巻き起こっています。『[図説]台湾の妖怪伝説』は妖怪を通して、独自の文化やアイデンティティーを再発見しようとします。

『列伝体 妖怪学前史』は妖怪がアカデミックな存在として市民権を得ていなかった時代の先人を、若手探究者が紹介した意欲作です。

(構成/編集部・井上有紀子)

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