うがき・みさと/1991年生まれ。フリーアナウンサーとしてテレビやラジオなどで活躍。10月26日にエッセイ集『風をたべる2』(集英社)が発売(photo 本人提供)
うがき・みさと/1991年生まれ。フリーアナウンサーとしてテレビやラジオなどで活躍。10月26日にエッセイ集『風をたべる2』(集英社)が発売(photo 本人提供)

 秋の夜長は読書に最適なシーズン。忙しい日常を忘れて非日常に浸ってみませんか。「没入できる本」を、読書家としても知られるフリーアナウンサー・宇垣美里さんに教えてもらいました。2022年11月14日号の「本」特集の記事から。

【画像】宇垣さんが教える「旅情気分に浸れる本」5選はこちら

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 本を読んでるとき、私は全然違う主人公になれるし、別世界へ行ける。ぶっ飛びたいんです。今、ここじゃないどこかへ行けるのが物語の良さだし、言葉にできなかった自分の感情が言語化されるのは心地よい体験。週に2冊は読みますし、新幹線での移動や、旅では2冊はカバンに本を入れます。自分の人生に本はなくてはならないものです。

 梨木香歩さんの『エストニア紀行』は、梨木さんが北欧のエストニアを訪れた9日間の旅がつづられます。こまやかな文章表現と語彙(ごい)と観察眼を持っている人の旅は、こんなふうに描かれるのか!と感動しながら読みました。私自身はエストニアに行ったことがないのに、なんなら昔から知っていたような気持ちになります。豊かで、美しくて、優しくて、そして素朴な国。読むだけで、旅に出たときの気持ちを思い出せる一冊です。

 岸本佐知子さんの『死ぬまでに行きたい海』も最高です。この本も何度も読みました。岸本さんが気の向くままに出かけていった先で見聞きしたもの、その場所の思い出などが書かれたエッセイなんですが、岸本さんの文章は独特の浮遊感があるんです。読んでいると、途中から「これはどこに行きつくんだろう」とか「これって夢?」と思わせるおぼろげな感じがとても楽しい。ふとした拍子に、現実と幻想のはざまを越えてしまうような筆致が少し怖くもあって、なかなか他では味わえません。

■生活の息吹丁寧に描く

 夜寝る前に電子書籍の配信アプリで新刊漫画をチェックして、気になったものは全部買うのが日課です。『あかねさす柘榴(ざくろ)の都』は、スペインのグラナダが舞台。14歳の少年・夏樹は両親を亡くしたことをきっかけに、母の故郷・グラナダで、母の妹でスペイン人のアルバと暮らすことになります。住むのはスペイン風のシェアアパート。アルバやグラナダの人たちとの交流を通し、夏樹は自分の中の喪失感と折り合いをつけ、どこで生きていきたいかを考え始めます。

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