雑踏事故が起きた韓国ソウルの梨泰院の路地。右側にあるハミルトンホテルの建造物で道幅が狭くなっている
雑踏事故が起きた韓国ソウルの梨泰院の路地。右側にあるハミルトンホテルの建造物で道幅が狭くなっている

 150人以上が犠牲となった韓国ソウルの繁華街・梨泰院での雑踏事故。大勢の若い命を奪った8年前のセウォル号沈没事故との共通点が浮かび上がる。AERA 2022年11月14日号より紹介する。

【写真】雑踏事故が起きた当日の混雑する事故現場付近の様子

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 韓国で再び多くの若い命が奪われた。

 ソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)は各国料理の店やクラブが多く、若者や外国人観光客に人気のエリアだ。10月29日夜、3年ぶりにマスクをつけずにハロウィーンの仮装を楽しもうと10万人を超える若者らが集まり、密集した人が折り重なって倒れる事故が起きた。死亡者156人(11月3日現在)の約3分の2は20代で、10代は12人。修学旅行中の高校生ら約300人が犠牲になったセウォル号沈没事故から8年余り。再び安全軽視により、若者たちの未来が絶たれた。

■両方向から人が流入

 筆者が留学中のソウルの東国(トングク)大学でも、演劇学部の俳優イ・ジハンさん(24)が亡くなった。人気のオーディション番組に出演した後、俳優として活動し、ドラマ「コクドゥの季節」で地上波デビューを目前に控えていた。学内には焼香所が設けられ、演劇学部は10月31日から11月4日まで休講となった。

 事故現場は傾斜のある狭い路地で、梨泰院駅からクラブが多いエリアへの経路だったため、駅から出てくる人、駅へ向かう人が両方向から流入し、身動きの取れない状態で事故が起きた。一方通行に規制するなど事前の対策で事故は回避できたはずだ。

 筆者は2014年のセウォル号事故の際は現場で取材に当たったが、既視感が否めない。安全対策の甘さや事故対応の遅れだけでなく、セウォル号では過積載、今回は違法増築によって道幅が狭くなっていたことが事故要因の一つに挙げられた。教訓は生かされなかった。

 事故当日、梨泰院に配置された警察官は137人。それも主に麻薬や性犯罪の取り締まりが目的だった。事故後、当局は「主催者がいないイベントだったため、安全管理のマニュアルが適用されなかった」と責任回避のような発言を繰り返した。韓国のある弁護士はこう指摘する。

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