稽古場の瀧原寿子さん(写真中央)。作・演出の三谷幸喜さんをまっすぐ見つめる。三谷さんの向こうにいるのは出演するウエンツ瑛士さん(撮影/加藤孝)
稽古場の瀧原寿子さん(写真中央)。作・演出の三谷幸喜さんをまっすぐ見つめる。三谷さんの向こうにいるのは出演するウエンツ瑛士さん(撮影/加藤孝)

 自分の話で恐縮だが、趣味の観劇のパンフレットが家に50冊あった。「舞台監督」が女性単独だったのは2冊だけ。その人の話だ。AERA2022年11月7日号の記事を紹介する。

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「鎌倉殿の13人」を書き終え、三谷幸喜さんが舞台に戻ってくる。11月からの「ショウ・マスト・ゴー・オン」。三谷さん書き下ろしの「伝説のコメディー」、28年ぶりの上演だ。

 主人公は舞台裏を取り仕切る「舞台監督」。次々起こるトラブル、「開幕して3分で笑いが沸点に」((C)三谷さん)という構造は不変だが、大きく変わったことがある。西村まさ彦さんが演じていた舞台監督が、鈴木京香さんに変わったのだ。というわけで、インタビューをした。鈴木さんに、ではない。

 瀧原寿子さん。この舞台の舞台監督。そう、舞台上の「舞台監督」も舞台裏の「舞台監督」も女性。

 脚本を書き換えるにあたり、三谷さんの頭に浮かんだのが瀧原さんで、ああいう女性舞台監督にしたいと思ったそうだ。瀧原さんに取材し、女性舞台監督ならではの台詞も書いた。

■取材は最初で最後

「彼女には俳優さんを支えていくスタッフの心意気を感じる。まさに縁の下の力持ち。取材を受けるのも今回が最初で最後、とおっしゃってました」

と三谷さん。

 はい、そうです。無理にお願いしました。というわけで、「寿子さん」「寿子ちゃん」と呼ばれている瀧原さんの話だ。

 1966年、丙午の生まれ。舞台の世界に入ったきっかけはアルバイト情報誌。短大服装科を卒業、インテリアコーディネーターを目指して専門学校に通っている時に見つけたのが、テレビの小道具係。「教師びんびん物語」(88年)などの現場で働いた。

 トレンディードラマ全盛期で、箱形の大きな携帯電話といった最新のものに次々触れられた。そういう刺激が楽しくて、本業のように。

 知り合いの衣装係の女性から「ちょっと舞台の仕事を手伝って」と言われたのがきっかけで舞台に転身、「演出部」と呼ばれる舞台監督の下につくスタッフの一員となっていく。大道具などの力仕事もあるから、ほぼ男性という職場だった。

■不満より多くの疑問

 大きな舞台の現場で働けてとても面白かったが、次第に引っかかることが増えた。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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