AERA 2022年11月7日号より
AERA 2022年11月7日号より

 コロナ禍で「働く喜び」が二極化しているという。年齢とともに働く喜びが増す女性に対し、男性は50代で底打ち。職場で何が起きているのか。AERA 2022年11月7日号の記事を紹介する。

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 人はどんなときに「働く喜び」を感じるのか。

 本誌が8~9月にネットで募ったアンケートに寄せられた回答は、「他人の役に立っていると感じたとき」や、「仕事の成果を評価されたとき」といった声が目立った。過去、現在含め働く喜びを感じた時期については「40代」が最も多かった。

 大阪府の自営業女性(62)が「働く喜びを実感した」のは、夫がサラリーマンから清掃業の経営者に転身した30~40代の頃だったという。

 女性も夫を手伝い、さまざまな現場に赴いた。マンションの建築現場や店舗、事務所などの清掃のほか、工場の除草も行った。女性はそれまで自分は「事務仕事が向いている」と思っていたが、「『ガテン系』もいけるんだと実感した」という。工事現場のホコリで髪が真っ白になったり、店舗の防虫作業中、クモが一斉にカーテンのように下りてきたのにびっくりしたり。そんな経験も面白く、旅行よりも楽しい思い出になっている、と振り返った。

■年齢重ね視野広がる

 働く喜びを感じるのは「経験年数がたち、幅の広がりを感じ、成長を実感したとき」と回答したのは山口県の麻酔科医の女性(52)だ。その時期は40~50代。まさに今だ。

「20~30代の頃は3人の子育てと、仕事を覚えるのに精いっぱいで、あまり余裕はありませんでした。がむしゃらに頑張って、今ようやく少し余裕が生まれてきた気がしています」

 女性は同じ職場で20年以上勤務している。人間関係もしっかり構築でき、同僚との信頼関係が生まれたことで、「チーム力を最大化する喜び」を感じるようになったという。

「年齢を重ねることで視野が広がり、『チーム力』の大切さを実感するようになりました。こういう感覚は、ただ、目の前の仕事をこなすだけでは生まれてこなかったと感じています」

 麻酔に関する専門知識やスキルだけでなく、手術などで患者の異変に気づく「直感力」も求められる。これは単に場数を踏むだけでは身につかず、周囲の医療スタッフを交えて話し合い、考察を深める経験が不可欠だと女性は強調した。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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