谷川直子(たにがわ・なおこ)/1960年生まれ。筑波大学卒。『おしかくさま』で2012年度第49回文藝賞受賞。著書に『断貧サロン』『四月は少しつめたくて』『世界一ありふれた答え』『私が誰かわかりますか』など(撮影/大野洋介)
谷川直子(たにがわ・なおこ)/1960年生まれ。筑波大学卒。『おしかくさま』で2012年度第49回文藝賞受賞。著書に『断貧サロン』『四月は少しつめたくて』『世界一ありふれた答え』『私が誰かわかりますか』など(撮影/大野洋介)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

『愛という名の切り札』は、谷川直子さんの著書。作曲家の夫を支え続けてきた梓は、愛人ができた夫から突然の離婚話を持ちかけられる。一方、有能な専業主婦の百合子は「結婚のメリットって何?」と考えつつも、淡々と、しかしたくましく日々を過ごしていく。結婚という愛の形を選んだ二人の女性を軸に、非婚のまま30歳になった百合子の娘・香奈や事実婚を選ぶ若い作曲家の理比人らを絡め、結婚の本質に迫る。谷川に同書にかける思いを聞いた。

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 作家の谷川直子さん(62)はしばらく前から結婚について書きたいと構想を温めてきた。今や人生80年時代。100歳に達する人も少なくなく、夫婦には子育てを終えてからも長い時間が残される。

「私の母は今85歳ですが父を老老介護中で、本当に大変。でも、介護されている父は平気で母に『文句があるなら出ていけ!』なんて言うのです。『結婚したというだけでこんなことまで引き受けないといけないのかな』『お母さん幸せなのかな?』と考えてしまいますね。また、私は離婚を一度経験し、再婚後は長崎県の五島列島で暮らしていろいろな結婚の形を見てきました」

 谷川さんには25歳の姪がいるが、若い彼女の結婚観も興味深いという。結婚という形の変化、世代による結婚観の違い。それらを一つの物語にまとめ、さまざまな視点から描きたいと考えた。

 音大出身でライターの梓は、才能はあるが収入の少ない作曲家の一輝と結婚する。彼女には、心に残った音楽を完璧に記憶し映像に置き換えて言語化するという特殊能力があり、一輝はそんな彼女を自分の最大の理解者と思って結婚した。だが、ゲーム音楽の作曲で新境地を開拓した一輝は若い女性を愛し家を出ていく。梓は彼から離婚を迫られても受け入れることができない。

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