JFEスチール
危険体感センター講師・
小貫和則(おぬき・かずのり)/1951年生まれ、福島県出身。69年、川崎製鉄(現JFEスチール)に入社。現場一筋で働き、冷間圧延機、焼鈍設備などの各制御機器保守担当統括。2016年から現職(photo 伊ケ崎 忍)
JFEスチール 危険体感センター講師・ 小貫和則(おぬき・かずのり)/1951年生まれ、福島県出身。69年、川崎製鉄(現JFEスチール)に入社。現場一筋で働き、冷間圧延機、焼鈍設備などの各制御機器保守担当統括。2016年から現職(photo 伊ケ崎 忍)

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2022年10月24日号には、JFEスチール 危険体感センター講師の小貫和則さんが登場した。

*  *  *

 「これは本物に似せた布製の腕です。皆さん、よく見ていてください」

 スイッチを入れると、上下に並んだ二つのローラーが動き始めた。高速回転するローラーに触れた瞬間、その腕がわずかな隙間に吸い込まれていった。

「本物の腕だったら、どういうことになるか、わかりますよね」

 JFEスチール東日本製鉄所千葉地区の一角にある危険体感センター。ここは、JFEや関連会社の社員らが機械や電気などによる労災事故を疑似体感できる施設だ。労災事故の怖さを肌で感じてもらおうと、長年現場で働いてきた熟練者が講師となり、現場に潜む危険を察知できるようになるよう指導する。

「では、あなた、やってみてください」。声をかけられた受講者がローラーに巻き込まれた疑似腕を全力で引き抜こうとするが、機械の力には到底及ばない。

「恐ろしい話ですが、実際に巻き込まれた人はもう腕を引き戻すことはできません」

 顔をしかめたくなるような事実を伝え、危険を体感してもらう。機械の点検や手入れの際にはスイッチを切るなど、決められたルールを守ることが基本だが、「ちょっとぐらいなら大丈夫だろう」という油断が事故を引き起こすという。

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