文学シーンで高い評価を受ける小川哲が、競技クイズを題材にした最新作『君のクイズ』を刊行した。巻末の謝辞に掲げられた人物の一人が、「クイズ王」の伊沢拓司だ。初対談で何が語られたか? AERA2022年10月24日号の記事を紹介する。

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小川:共通の友人から伊沢さんの話はよく聞いていたんですが、お会いするのは初めてですね。

伊沢:小川さんのことは、クイズに出題される対象としても存じ上げていました。カンボジアが舞台の小説『ゲームの王国』で山本周五郎賞を受賞した作家は……という問題で、初めてクイズに登場したんだったかな。

小川:知り合いに「テレビに出てたよ」と言われて「え?」と思ったら、クイズ番組だったことがありますね(笑)。僕が今回、『君のクイズ』という競技クイズの小説を書いたきっかけの一つは、QuizKnock(伊沢が代表を務める知識集団「クイズノック」。YouTubeのチャンネル登録者数は194万超)の動画にハマったことなんです。少し前までのクイズ界って、伝統芸能で師匠から弟子にしか伝えられない「秘伝」的なものがあまり表に出てきていなかったじゃないですか。それゆえに、クイズプレイヤーは『幻魔大戦』みたいなことをしていると世間一般では思われていた。

伊沢:「クイズモンスター」対「クイズ魔獣」の空中戦、みたいな(笑)。

小川:その「秘伝」の中身を、QuizKnockがネタバラシしてしまった。クイズプレイヤーたちはとんでもないことをやっているように見えて全部理屈があるんですよ、特殊な訓練によって得た技術に基づくものなんですよ、と。それを知ることで、僕は競技クイズがより面白く感じられるようになったんです。

伊沢:そこを面白がっていただけるのは冥利に尽きます。そこがバレたらお客さんが離れていってしまうんじゃないか、という恐れはありましたから。

小川:ただ、「あっ、そういうことだったんだ」と腑に落ちる感覚もありつつ、「いや、その理屈も化け物だけどな!」とも思う(笑)。伊沢さんはよく「マジックからロジックへ」という言い方をされますが、競技クイズにおけるロジックを知った自分と、それでもクイズプレイヤーの思考にマジックを感じる自分、両方の視点から書こうとしたのが『君のクイズ』なんです。

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