為替介入を受け、記者会見する鈴木俊一財務相。左は神田真人財務官=9月22日午後6時45分、東京・霞が関の財務省
為替介入を受け、記者会見する鈴木俊一財務相。左は神田真人財務官=9月22日午後6時45分、東京・霞が関の財務省

 今春から進んだ「円安」の評判がすこぶる悪い。物価高を招く悪者だと政府は円安阻止に動いたが、「円安」はそんなに悪いことなのだろうか。AERA 2022年10月10-17日合併号の記事を紹介する。(全3回の3回目)

【図表】過去にあった主な為替介入の事例はこちら

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 1985年のプラザ合意は円安の追い風を受けて貿易黒字を増やす日本に対して主要先進国が円安ドル高を是正するための国際協調だった。その後、日本は円高にずっと苦しんだ。

 そのため過去の為替介入といえば、日経新聞によると円高阻止のための円売り・ドル買い介入が319回と多い。今回のような円買い・ドル売り介入は32回と少ない。24年前に実施した円安阻止の介入は、円安がアジア経済危機を招き、ひいては世界経済を揺るがしかねない懸念があったためだ。

 ところが今回の為替介入は物価高への悲鳴が上がる国内事情を背景に、円安阻止を狙ったものである。同じ円安阻止の介入だが内実は相当異なる。

AERA2022年10月10-17日合併号より
AERA2022年10月10-17日合併号より

■ちぐはぐな対応必要なかった介入

 そもそも円を買って市場の円を減らし、円高、金利高を招く為替介入は、低金利を維持しようとする日銀の金融政策と矛盾する。

 黒田日銀総裁の考え方は「円安は全体としてはプラス」というものだが、先の参院選で物価高が焦点になったため、発言を修正せざるを得なかった。今回の為替介入でさらに矛盾を抱えてしまった格好だ。

 むしろ30年間、低迷してきた日本経済を立て直すことを優先するならば、いまこそ円安の効果に目を向けた方が良いのではないか。ある経済産業省OBは最近の円安状況をみて、現役官僚に発破をかけているという。「今こそ全国の工業団地などに新産業を誘致すべきだ。日本企業は国内回帰を加速する。外国企業も進出を検討するだろう」と語る。

 新型コロナウイルスで一躍有名になった米製薬会社モデルナは日本国内での工場建設を検討中だ。円高時には考えられなかったことだろう。10月11日にはコロナ禍で厳しくなった水際対策も緩和され、円安によるインバウンド客の増加に期待がかかる。円安阻止の為替介入をした政府だが、ここでは円安メリットを生かそうとするというちぐはぐぶりだ。

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安井孝之

安井孝之

1957年生まれ。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京、大阪の経済部で経済記事を書き、2005年に企業経営・経済政策担当の編集委員。17年に朝日新聞社を退職、Gemba Lab株式会社を設立。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。

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