一方の日本の物価高は欧米が8~9%増という水準に比べ2.8%とまだ低い。そのうえ日本は欧米のように需給が逼迫し景気が過熱しているわけでもないので、低金利政策が維持されている。結果として日米の金利差がこの半年で広がった。

 一般的に金利が高い通貨が買われるので、米国が利上げするにつれてドルが買われ、円が売られていく。この半年で1ドル=115円程度から140円超まで約30円の円安になったのだ。

 エネルギーや食糧の自給率が低く、海外に頼っている日本にとって、エネルギーや食料品の価格が高騰している今、円安が進行するのはつらいことだ。ましてや7月の1人あたりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比1.8%減(厚生労働省の毎月勤労統計調査)で4カ月連続のマイナスだ。

 賃金が上がらない消費者にとって昨今の物価高はつらく、それを後押しする円安は悪い、となるのはよくわかる。

 また円安でメリットを受ける輸出の比率が少ない中小企業などはコストアップに耐えられず、苦しさが増しているだろう。

■成長軌道に乗せるチャンスでもある

 消費者や中小企業の立場から考えれば、物価高、それを加速する円安は「悪い」となる。政治家は苦しいと声を上げる人たちを無視はできず、円安阻止に頑張っている姿勢を見せなければならない。効果がないと揶揄されようと為替介入に踏み切る所以である。それが政治というものかもしれない。

 だが筆者は「円安を阻止すべきだ」と言われても、即座にその通りとは思えない。5年ほど前まで新聞社で働いていたが、新聞各社が一斉に円安問題を書き始めると、むしろへそ曲がりの虫が動き出すのだ。

「急激な円安は日本経済にも悪影響を及ぼす」と社説に書いた日本経済新聞だが、紙面をみているとこんな目を引く記事があった。

 本多佑三・大阪学院大学教授(大阪大学名誉教授)は9月13日付の経済教室を「現在の日本の政策当局の限られた手段を考慮したとき、米国の金融引き締めによる円安は日本経済を成長軌道に乗せる絶好のチャンスでもある」と締めくくった。本多氏は日本経済学会会長や日本銀行金融研究所顧問などを歴任した経済学者である。

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