匿名出産する生みの親の情報を記録する用紙と個人情報を残す封筒。右手前は制度の説明の冊子(写真:目白大学人間学部姜恩和准教授提供)
匿名出産する生みの親の情報を記録する用紙と個人情報を残す封筒。右手前は制度の説明の冊子(写真:目白大学人間学部姜恩和准教授提供)

 特定の人だけに身元を明かして産む「内密出産」。日本では今年初めて実施されたが、海外では、誰にも身元を明かさない「匿名出産」を保障している国もある。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。

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 これは同じ星のことなのか──。妊娠・出産をめぐるフランスの制度を知ってそう感じた。

 生まれた赤ちゃんに対し、女性と男性の両方に「認知」するかどうかを決める権利が保障されている。婚外子は6割にのぼるが(日本は2%)、出産後に父親の認知を裁判所に請求でき、DNA検査を拒否した場合は男性が父親であると決定されて子の18歳までの養育費支払い義務が成立、給料から天引きされる。妊娠・出産について男性側にも責任を求める仕組みだ。

■妊娠中も保護の対象

 こうした彼(か)の国の制度を紹介してくれたのはパリ在住で子ども家庭福祉を研究する安發明子(あわあきこ)さんだ。フランスの「匿名出産」にも詳しく、日本で内密出産の法整備に取り組む伊藤孝恵・参院議員が8月末に主催した勉強会で講師を務めた。

 日本では今年1月、本市の慈恵病院が「内密出産」を初めて受け入れ、国はガイドラインの策定を進めている。内密出産は特定の第三者だけに身元を明かして出産することにより、女性の出産を知られたくない権利と赤ちゃんの出自を知る権利の両方を守ることを目指すが、フランスでは第三者にさえ女性が身元を明かさずに情報を預け、出産する「匿名出産」が公費で保障されているという。

「毎年匿名出産を選ぶ女性が約600人います。また、年間10件ほどの乳児殺害事件が起きています。これらは、心理的なケアを十分受けられなかった人がいることを示している、と現場は受け止めています」(安發さん)

 フランスでは妊娠中も児童保護の対象になる。安發さんは、1948年に国連総会で採択された「世界人権宣言」25条の日仏の訳語の違いを指摘する。

「日本語で<母と子は大切にされなくてはならない>と訳されている部分を、フランスでは<妊娠期と子ども時代は特別な支えを必要とする>と訳しました。近年では妊娠4カ月からの1千日は子どもの将来に大きな影響を残す期間であるとし、医療面だけでなく心理面・社会面でも環境を保障する仕組みが整えられています」(同)

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