石FES東京の会場で。石を使ったアート作品などを作る9人のアーティストが出展した(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
石FES東京の会場で。石を使ったアート作品などを作る9人のアーティストが出展した(撮影/写真映像部・高橋奈緒)

 海辺や川原に落ちている”石ころ”を拾って、愛でる──。そんな活動が今、密かなブームとなっている。「自分で拾って、自分で集めて、自分で楽しむ」のが醍醐味だ。AERA2022年10月3日号の記事を紹介する。

【写真】石フェス会場には「石の交換箱」が設けられていた

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「石FES東京」。なんとも不思議なフェスが開かれていたのは、東京・清澄白河の喫茶店ハタメキ。9月10、11日の2日間にわたり開催され、石拾いや石を使ったアート制作、鉱物コレクションなど、様々な形で石を愛する人たちが出展した。

 フェスはハタメキの店主・江間みずきさんと友人のアッコさんが発起人となり、石好きの仲間たちと開催したもの。

 小さい頃から家族へのお土産に旅先で石を拾っていたという江間さんは、

「価値観が多様化して、自分の『好き』を大切にする人が増えています。石を愛する人たちの『私しかわからないこの石の良さ』を共有できる場になれば」

 とその意図を語る。

 石といえば、日本には水石と呼ばれる伝統文化がある。台座に置き、山並みや滝などの風景に見立てたりして鑑賞するものだ。一方、鉱物や天然石も世界中に多くのファンがいる。

 しかしこうした従来の石カルチャーと、今回のフェスを中心とした石ブームは、どうやら違うものらしい。

エッセイスト 宮田珠己(みやた・たまき)/『いい感じの石ころを拾いに』(中公文庫)著者。旅行記、エッセイを中心に執筆。1990年代に旅先のパキスタンで石を拾って以来、全国各地で拾い続けている(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
エッセイスト 宮田珠己(みやた・たまき)/『いい感じの石ころを拾いに』(中公文庫)著者。旅行記、エッセイを中心に執筆。1990年代に旅先のパキスタンで石を拾って以来、全国各地で拾い続けている(撮影/写真映像部・高橋奈緒)

■情報より「一撃の感動」

 フェスの目玉イベントとして盛り上がりを見せていた宮田珠己さんのトークショーにお邪魔した。

「本当はもっと持ってきたかったんだけど、重くて持ってこられなかったの」とリュックから次々に石を取り出す。石が入った袋には、拾った海岸の名前が書かれている。

「これは大航海時代の地図みたいでしょ。これは太陽の石って呼んでるの。模様が太陽みたいでしょ。見つけたときは『きたっ!』と思ったね」

 参加者に石を見せながら熱く語っているのが宮田さんだ。現在の石ブームを牽引する人物で、2014年に出版した紀行エッセイ『いい感じの石ころを拾いに』は石拾いのバイブルとして愛読者が多い。

 書名が示す通り、宮田さんが拾うのは単なる「いい感じの石ころ」だ。水石を購入するでも鉱物を探し求めるでもない。

<とにかく海辺にしゃがみこんで、なんかいい感じの石ころを探していれば私は満足だった。そして、それ以上主張したいことは、とくにないのだ>

 とあとがきには記されている。誰でも海辺や川原に落ちている石ころを拾った経験があるだろう。あの石ころが、なぜこんなに人を惹きつけるのか。

 水石なら、数万円、時には数十万円という値がつく。鉱物の場合も、希少性によって市場での価値が決まっている。

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