人生後半を楽しく生きる秘訣とは(イラスト:サヲリブラウン)
人生後半を楽しく生きる秘訣とは(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 20年来の女友達は、会社員からリラクゼーションサロンの施術者に転身して、多くの体に触れるようになったら、言語コミュニケーションで得られる以上の情報が認知できるようになったと言います。

 相手が笑顔でいたとしても、体を触れば悩みがあるとか、コンプレックスに苛まれているのが手のひらを通して伝わってくるのだそう。私にはない感覚だけれど、経験を積んだ彼女だからわかるのかも。

 話変わりまして、私には霊感がありません。子どもの頃に不思議な経験をしたことはあったけれど、いまは勘違いだったと微笑ましく思えます。

 霊感はありませんが、霊的な存在があるか否かについては、強く肯定も否定もしない態度をとっています。おばけが見えると言う人がいたとして、私が見えないからと、それを「存在しない」と断定するのは不遜だという考えです。当然、弱みに付け込みお金や労働や時間を奪う霊感商法には、NOを突き付けますが。

 リラクゼーションマッサージとおばけの存在、どちらも、「ないとされているものを、具体的に把握できると言う人がいる」のが共通点です。

 私たちの多くは、視覚や聴覚から得た文字や言語の情報を判断基準にして生きています。それ以外の情報は、存在しないと無意識にジャッジするフシもある。それでいて、「なんかおかしい」とか、「ピンときた」などの感覚も備えている。非言語情報を漠然とキャッチしているのです。

イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 訓練でおばけが見えるようになるとは思えませんが、この「なんかおかしい」は、訓練で言語化できるようになります。それが自身の偏見からきているのか、そうでないかの判断もつくようになる。非言語情報を読み取る時に、思い込みが悪さをすることもありますからね。

 人間を50年近くもやっていれば、私はすでに人生の経験者と言えるでしょう。ならば、ないとされている「なにか」を精査し、言語化できるようになりたい。それが、人生後半を楽しく生きていく秘訣になると信じています。

 自分と向き合い続けることを徹底してやっておかないと、追々「ない」ものを「ある」と思い込んだり、「ある」ものを「ない」と無視したりで人生の辻褄が合わなくなるような気がするのです。そういう年長者を目にすることが少なくなく、もう誰も注意してくれないだろうから、自分でなんとかせねばと思いまして。

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中。

AERA 2022年9月26日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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