川口加奈(かわぐち・かな)/1991年、大阪府生まれ。社会起業家。14歳でホームレス問題に出合い、19歳でHomedoorを設立(写真:本人提供)
川口加奈(かわぐち・かな)/1991年、大阪府生まれ。社会起業家。14歳でホームレス問題に出合い、19歳でHomedoorを設立(写真:本人提供)

 賃金は増えず、物価は上がり、格差が広がっている。「縮むニッポン」で暮らす私たちは今後、何を目指していけばよいのか。認定NPO法人「ホームドア」理事長・川口加奈さんに、そのヒントとなる処方箋を聞いた。AERA 2022年9月19日号の記事を紹介する。

【写真】ホームレスの人々に配る食料を準備する支援団体のメンバー

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 最近は路上にいる目に見えるホームレスの方は減っていますが、「見えざる貧困」が増えています。固定の住まいがなく、ネットカフェなど深夜営業店で寝泊まりしたり、知人宅を転々としたりする「不安定居住層」と言われる人たちです。

 中でも深刻なのが若者です。

 私は2010年、大学2年の時に仲間と一緒にホームレスの人を支援する「Homedoor(ホームドア)」を立ち上げました。当初は年配の男性ホームレスの人からの相談がメインでしたが、コロナ禍以降、若い人からの相談が増えています。昨年度のホームドアへの相談は約900人からあり、10代後半から30代が全体の半数近くを占めました。住む家がなかったり、お金がなかったり、困窮状態にある人たちです。

 こうした若者の困窮者が増えた背景には、家庭環境と非正規雇用の大きく二つの問題があると考えています。

 まず、家庭環境では、幼少期から虐待やDVを受けて育っていたり児童養護施設の出身であったり、複雑な事情を抱えている人が多くいます。経済的に困窮している家庭も少なくなく、進学する余裕がなく、高校や大学に行けないことで就職が難しく非正規雇用になりやすくなります。不安定な非正規雇用に就いた結果、コロナによって仕事を失っています。他にも家族連れや夫婦、母子家庭など、幅広い層から相談を受けるようになりました。ただこれらは、コロナ禍前からあった問題で、コロナによってその裾野が広がっただけだと思います。

 日本は敗者に厳しい国だと思います。

 概念的な話になりますが、今の日本社会は閉塞(へいそく)感が漂い、自己責任論が強く一度失敗したり仕事を失ったりした敗者に厳しい国です。生きづらさというか、息の詰まった感じがあると思います。「縮む日本」は、そういうところに感じます。

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