「分厚い中間層の復活を」と岸田首相は言うが、労働分配率は低下し、賃金は伸び悩んでいる(撮影/写真映像部・松永卓也)
「分厚い中間層の復活を」と岸田首相は言うが、労働分配率は低下し、賃金は伸び悩んでいる(撮影/写真映像部・松永卓也)

 1億総中流は遠い昔の話だ。気づけば、「失われた20年」は「30年」になり、賃金は増えず、物価は上がり、人は格差に疲弊している。もはや「1億総五里霧中」。縮みゆくニッポンに処方箋はあるか。AERA 2022年9月19日号の記事を紹介する。

【日本の実質GDP成長率(年間変化率)の推移はこちら】

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 SNSを使いこなす若者を見習うことも「縮むニッポンの大人たちに必要」と話すのは、マーケティングアナリストの原田曜平さんだ。

 なぜ多くの人が将来に不安を抱くのか。原田さんは「地方は別」と前置きした上で、東京を始めとする日本の大都市とその周辺について、「他の国に比べれば極めて恵まれていると知ること」だと指摘する。

「日本の1人当たりの平均給与は、米国には負けますが、実は世界で10番目くらい。決して悪くない。東京の物価が高いとはいえ、世界の大都市部に比べるとまだまだ安い」

 たとえば、日本で1杯千円もしないラーメンが、米国では2500円することもある。

「家賃も新築マンションも確かに高いですが、ロンドン、パリなどに比べれば安い。給料は決して高くないにしても、日高屋やサイゼリヤ、庶民的な飲食店で、コストを抑えて十分おいしい食事を楽しめる。『日本の大都市圏での暮らしは十分に幸福』だと気づくことです」

 そんな幸せに気づけていないのが、右肩上がりの世界観を知らず知らず継承してきた“ドメスティックな中高年”だ。バブルを知らない30代以下のほうが「足るを知っている」という。

「成長していた過去を忘れられず、親世代がもらえた年金をもらえないのはおかしいとか、ドメスティックであるがゆえに時系列比較で不幸を感じてしまう」

■本来の幸せは何か

 原田さんは「『社会人になったら高級車を買う』が価値観だった時代の方がおかしい」と話す。

「カフェに入ってインスタ映えする写真をあげ、『いいね!』をもらえたらハッピー。それが本来の幸せかと思います」

 そんないまの幸せを実践する人がいる。都内の会社員の女性(41)は、広告会社の正社員。独身で、年収は750万円ほど。東京の暮らしを満喫している。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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