胃ろうからの栄養注入や人工呼吸器の調整など長女の医療的ケアを行いながら生活する江利川さん。医療と教育と福祉の連携が進むことを期待する(撮影/写真映像部・加藤夏子)
胃ろうからの栄養注入や人工呼吸器の調整など長女の医療的ケアを行いながら生活する江利川さん。医療と教育と福祉の連携が進むことを期待する(撮影/写真映像部・加藤夏子)

 昨年9月に医療的ケア児支援法が施行され、1年がたつ。ケアが必要な子どもの親や、医療や福祉の関係者は変化を実感している。AERAdot.で「障害のある子と生きる家族が伝えたいこと」を連載する江利川ちひろさんが、神奈川県で医療的ケア児の在宅支援を行う県立こども医療センター地域連携・家族支援局長の星野陸夫医師と、社会福祉法人風祭の森地域支援センターの大友崇弘センター長(医療的ケア児等コーディネーター)に話を聞いた。AERA2022年9月19日号の記事を紹介する。

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江利川:医療的ケア児支援法の施行後、現場で何か変化を実感される場面はありますか。

大友:初めて法律に「医療的ケア児」が定義され、国や自治体の会議等でも言葉自体はよく聞かれるようになったと思います。

星野:ご家族の期待もすごく高まっていると感じます。ただ、ご家族の生活を見ているとアクションを起こす余裕がない方が多いように感じます。

江利川:医療的ケア児支援法には「家族の離職の防止」という記載がありますが、通学や学校内での付き添いを求められる状況には変化はありますか。

大友:ご家族やお子さんの生活の変革には至っていないと思いますが、ご家族の中には、「これまであきらめていたことも、声に出していくことが大切なんだ」という気持ちを持ち始めた方もいらっしゃいます。

江利川:あきらめていたこと、というのは就労などですか。

大友:学校の付き添いがある時期や、お子さんの状態が不安定な場合は、勤務のシフトに穴を開けてしまうので、職場から退職を迫られるわけではなくても、いたたまれずに自ら退職してしまう状況があります。「自分がすべての育児を担わなければ」という思いが社会に出ていくことを阻害している面もあります。

■子ども自身が医ケアを

江利川:実際にうまくいっているケースもありますか。

星野:例えば、横浜市の普通学校における医療的ケア児支援の取り組みが新しくて興味深いですね。教育委員会が訪問看護ステーションと契約して、訪問看護師が必要に応じて学校に行くという事業です。教師と看護師が協力して、医療的ケアを子どもたちが自分でできるように自立を支援する内容も、計画の中に盛り込まれています。この事業とは別ですが、気管切開をしているあるお子さんは、6年生の修学旅行に学校から保護者の付き添いを求められました。お母さんは承諾したけれど、本人が「お母さんが来る修学旅行なんて嫌だ」と言って学校と交渉し、5年生から1年かけて自分でカニューレ(気管に挿入する管)の入れ替えの練習をし、付き添いなしで行くことができたお子さんもいらっしゃいました。

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