新型コロナの療養期間が明け、会見に臨む岸田文雄首相。旧統一教会と自民党の関係が指摘されている点については「率直におわび申し上げます」と陳謝した/8月31日
新型コロナの療養期間が明け、会見に臨む岸田文雄首相。旧統一教会と自民党の関係が指摘されている点については「率直におわび申し上げます」と陳謝した/8月31日
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 旧統一教会と自民党の密接な関係が次々と明るみに出る中、岸田文雄首相は自民党のコンプライアンスを強化する方針を示した。岸田首相は抜本的な対応策を打ち出せるのか。AERA 2022年9月12日号の記事を紹介する。

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 会合出席や選挙での応援、パーティー券の購入、会合への祝電……。旧統一教会と自民党との関係は多岐にわたる。その問題の本質は何か。

 原点は東西冷戦下の反共運動でのつながりである。当時、統一教会と一体の勝共連合は自民党を全面支援。安倍氏の祖父である岸信介元首相らが勝共連合との窓口になっていた。統一教会の日本国内での活動には霊感商法や合同結婚式など社会的に問題となるものが多かったが、「共産主義との対決」を名目に連携は続いた。

反共から反民主党へ

 時移り、冷戦は終わった。「共産主義との対決」は自民党のレゾン・デートル(存在理由)にはならなくなった。一方でこの間、自民党はロッキード事件やリクルート事件などで金権腐敗体質が批判され、小選挙区制の導入を柱とする政治改革が実現した。金権体質は是正されたが、小選挙区制下では政権党の失政が下野に直結する。

 2006年の第1次安倍政権から自民党政権は首相の交代を繰り返し、混迷した。その結果、09年に自民党は民主党に政権を明け渡した。自民党は「野党暮らしが続くのではないか」と危機感を募らせた。安倍氏は民主党政権を「悪夢」と呼んだ。その陰で、09年に議席を失った萩生田氏や山際氏は、復権を狙って旧統一教会系の団体との連携を深めていた。安倍氏が首相在任中や退任後に、自民党の参院比例区候補をめぐって、旧統一教会系の組織票の割り振りを取り仕切っていたことも明らかになっている。

 冷戦時代の「反共」が「反民主党」に入れ替わり、「民主党から政権を奪還するには、多少問題のある団体と連携しても構わない」という意識が醸成された。それは、まさに「コンプライアンス危機」である。コンプライアンスは単に法律などを守るというだけでなく、社会規範や社会道徳を守るという価値基準である。歴代の自民党政権は、企業に対して「利益を上げるためにどんな団体とも付き合ってよいというわけではない」とコンプライアンスの徹底を求めてきた。それなのに自民党自身がコンプライアンスを守っていないことが露呈した。旧統一教会問題の本質はまさにそこにある。

 岸田首相は、旧統一教会をめぐる問題の本質を把握しているのだろうか。茂木敏充幹事長ら自民党執行部に対して「もう一段踏み込んだ対応」を求め、自民党は所属する衆参両院議員に対して旧統一教会との関係をめぐってアンケートを実施することになった。ただ、アンケートは「祝電を打ったか」「パーティー券の購入はあったか」など、これまで首相官邸が閣僚や副大臣・政務官に問いただした内容とほぼ同じで、党全体で集計したとしても意味はない。

 岸田首相は新型コロナウイルスに感染し、公邸で隔離生活を送っていたが、8月31日に対面での公務に復帰。記者会見で旧統一教会問題について「自民党のコンプライアンスを強化する」と表明した。だが、具体策には踏み込んでおらず、国民の理解が高まるとは思えない。

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