(イラスト/ 西田ヒロコ)
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 顧客から従業員への理不尽なクレームが横行している。企業側は「カスハラ(カスタマーハラスメント)」に、どのような対策を講じているのだろうか。AERA 2022年8月29日号の記事から紹介する。

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 カスハラが起きるのは消費者側だけの問題なのか。クレームと消費者心理について10年以上、研究を続けている関西大学社会学部教授の池内裕美さんは、企業側に根強くある「カスタマー(顧客)ファースト」も背景にあると分析する。

「60~70年代の高度経済成長期から、どんな業種でも企業間競争が激しくなりました。それまでの『モノを作れば売れる』時代から『まずお客様のニーズを考えないと売れない』時代へ。つまり『顧客第一主義』に陥るマーケティング的発想が日本にも生まれてきたわけです。加えて『おもてなし』を美徳とする価値観もある。カスハラに関してはそれが、対人サービス業において自分たちの首を絞めています」

■過剰なサービスも一因

 そもそも、なぜ苦情は生じるのか。「(消費者が)期待するから」だ。その期待に対する企業側のパフォーマンス(成果)が低いほど、不満が生まれやすい。不満が顕在化したものがクレームだと、池内さんは説明する。

「『期待不一致効果』という理論があります。たとえば引っ越し屋さんが“引っ越し後も1回まで無料で模様替え(家具移動)のサービスをします”と言いました。その後、他の引っ越し屋さんが“あんたのところは模様替えをしてくれないのか”と言われ、“うちもやらないと”。お客様によかれと思ってサービスをするほど、消費者の『(やってもらえて)当たり前』という期待値は上がり、応えなければ不満へつながる。企業の過剰なサービスが、皮肉にも消費者の力を強くしていき、ますます消費者ベースで世の中が動く。カスハラもそんな構図の中で起きているのかもしれません」

 カスタマーファーストはいいが、このままでは従業員の心身が持たない。“理不尽”に対抗するため、企業側はどう取り組んでいるのだろう。

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。アエラ増刊「AERA Money」も担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などマネー関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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