(AERA2022年8月29日号より)
(AERA2022年8月29日号より)

 年齢・性別分布を見ると、中年~高齢男性からの苦情が特に多く、100%の悪意によるものではないという。その背景に何があるか。AERA 2022年8月29日号の「カスハラ」特集記事から紹介する。

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「カスタマーハラスメントと言える悪質なクレームをつけるのは、中年層の男性と高齢の男性が特に多いです」

 こう話すのは、クレームと消費者心理について10年以上、研究を続けている関西大学社会学部教授の池内裕美さん。「高学歴」「高収入」「社会的階層の高い人」が目立つという。

「彼らは『筋論(すじろん)クレーマー』と呼ばれています。たとえば『自分は○○社の営業部長だ』などと自らの組織内での地位を語りつつ、筋道を立てて論理的にネチネチと責める。特にコンビニやスーパー、飲食店や介護・医療施設、タクシーや鉄道会社など『対人サービス業』に携わる従業員がターゲットにされやすいようです」

 池内さんがその傾向に気づいたのは2007年。企業のお客様相談室の室長を対象に、クレームの調査をしたときだ。どの業種の室長からも中高年男性、中でも高齢男性の苦情が増えつつあること、そして「これからも増えると思う」という声を聞いた。なぜ07年なのか。

■団塊世代が社会卒業で

「この年は、団塊の世代(1947年から49年生まれ)の方がいっせいに定年退職された年なのです。60歳で社会での活躍の場はなくなった。でもまだ社会とつながっていたい。そこでフリーダイヤルの『お客様相談室』に電話する。『俺は○○社で部長をやっていたけど、おまえのところのあの商品の説明書は何だ。あれじゃ間違った使い方をする人が絶対いるぞ』など、上から目線で社会的代弁者や教育者のごとく、オペレーターさんを責めます」

 厄介なのは、筋論クレーマーの多くが100%の悪意でやっているわけではないということ。

「自分のことをクレーマーだとは思っていないのです。『こんなことだと、クレーマーにクレームつけられるぞ』と説教したりします(笑)。対応する側が『これはクレームですか?』などと言おうものなら、『自分をクレーマー扱いした』となり、長期戦は避けられません」

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。アエラ増刊「AERA Money」も担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などマネー関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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