(イラスト/ 西田ヒロコ)
(イラスト/ 西田ヒロコ)

 セクハラやパワハラなど様々なハラスメントが問題視されてきたが、近年、取り沙汰されているのは「カスハラ(カスタマーハラスメント)」。客が過剰な要求や不当な言いがかりをつける迷惑行為だ。スーパー、飲食店、コールセンター…顧客による従業員の被害は後を絶たない。なぜ”一線”を越える客が増えたのか。AERA 2022年8月29日号の記事から。

【図表】不安や不眠、カスハラを受ける側の心身へのダメージ内容は

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 不特定多数を接客する小売業やサービス業でも、カスハラは日常茶飯事だ。ブームは過ぎたとはいえ、行列ができやすいタピオカドリンク店で働く東京都の20代男性は不満を漏らす。

「感染予防の観点から一度に入店できる人数を制限し、レジの稼働も1台にとどめていました。人数制限の告知も入り口に貼ってありますが、1人のお客さまが『行列になっているんだから、もう1台のレジも開けろ!』と怒り始め……その対応でさらに行列は長くなりました」

 神奈川県の30代女性は友人のカスハラ体質に辟易していた。

「私も含めて、自分の周りの人にはやさしいのに、サービス業の人には非常にシビアなんです。少しでも気にさわると容赦なくクレームをつけていました。飲食チェーンの店員がコップを置いた際、少し水がはねただけで豹変し、『その水の置き方は何』と説教が始まります」

 その友人は以前、「父親から食事のマナーについては厳しくしつけられた」と話していた。「親の影響でカスハラ体質になったのかもしれないですが……。一緒に食事するこちらは身の置き場がなくなるし、次第に疎遠になりました」

■電話で号泣しつつ謝罪

 サービス業におけるカスハラでは、埼玉県で英会話教室の講師を務める40代女性のケースも然り。幼児向け英会話レッスンの最中、わが子をそこへ通わせていた母親により騒動は発生した。

「毎回、お母さまはレッスン中に窓から顔を半分だけのぞかせ、教室内のわが子をずっと観察していました。その子が英語を使ったゲームの最中、一生懸命になりすぎてしまい、先に正解しそうになったお友だちのことを叩きそうになりました。とっさに私が背後からふわっと抱きしめる形で制止したら、お母さまが血相を変えて教室内に飛び込んできたんです」

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大西洋平

大西洋平

出版社勤務などを経て1995年に独立し、フリーのジャーナリストとして「AERA」「週刊ダイヤモンド」、「プレジデント」、などの一般雑誌で執筆中。識者・著名人や上場企業トップのインタビューも多数手掛け、金融・経済からエレクトロニクス、メカトロニクス、IT、エンタメ、再生可能エネルギー、さらには介護まで、幅広い領域で取材活動を行っている。

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。アエラ増刊「AERA Money」も担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などマネー関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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