(c)Irvin Rivera/Getty Images Entertainment/Getty Images
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 一流のヘアメイクドレッサーとして活躍したパットは、今や静かな老人ホーム暮らし。ある日、かつての顧客リタの遺言で葬儀の死化粧の依頼が舞い込む。彼女に対する複雑な思いを抱える彼は一度は断るが、意を決して老人ホームを抜け出すことに──。連載「シネマ×SDGs」の17回目は、実在の人物をモデルにした心温まる感動作「スワンソング」でパッドを演じたウド・キアーに話を聞いた。

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 ヘアメイクドレッサーだった実在の人物パットを演じました。彼はトッド・スティーブンス監督の出身地オハイオ州サンダスキーという小さな街の有名人でした。

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 脚本を2回読んですごく気に入ったんです。退屈な老人ホームを出たパットが過去を遡っていくような、20年の変化を語るストーリー展開がとても好きでした。昔はなかった携帯電話に気づくとか、ドラァグクイーンとして舞台に立った懐かしのゲイバーを訪れると、店は閉店間際になっているとか。インターネットの普及で出会いの場もSNSに取って代わり、ゲイ社会も大きく変わっています。

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 僕の若い頃はホモセクシュアルは禁忌でした。今はマクドナルドで同性同士がキスしていても誰も気にしない。僕が16歳だった頃、ドイツに住んでいたときは“175条”という規定がありました。男同士が同棲していた場合、夜に営みの音を聞いた誰かが通報したら、それで刑務所に連れて行かれてしまう。そういう時代だったんです。

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 社会は大きな変化を遂げたと思います。これだけ早くそして広範囲に時代が進歩したのは歓迎すべきことです。例外はあっても世界的に「この人は僕のパートナーですよ」と堂々と言えるようになってきた。それどころか結婚も許され養子も取れる。政界にポジションを獲得している人もいます。

ウド・キアー(Udo Kier)/1944年、独・ケルン生まれ。俳優。66年、短編映画でデビュー。ラース・フォン・トリアー監督の作品に多く出演。8月26日から東京・シネスイッチ銀座ほか全国順次公開 (c)2021 Swan Song Film LLC
ウド・キアー(Udo Kier)/1944年、独・ケルン生まれ。俳優。66年、短編映画でデビュー。ラース・フォン・トリアー監督の作品に多く出演。8月26日から東京・シネスイッチ銀座ほか全国順次公開 (c)2021 Swan Song Film LLC

 願わくは、こうしたことがもっともっと普遍的になる時代がやってきてほしい。最近、ホモセクシュアルの役をストレートの俳優がやるのはいかがなものかという議論がありましたが、僕はそれは問題ではないと思う。LGBTQの権利だとかLGBTQがやるべきだとか、そういうことがもはや議題にならないようになることを望んでいます。(取材/文・坂口さゆり)

AERA 2022年8月29日号