今年7月に3年ぶりに開催したNPO法人かるがもCPキッズの対面イベントの様子。インクルーシブ遊具のある都内の公園で、車いすに乗った子どもやパパママが交流を楽しんだ/江利川さん提供
今年7月に3年ぶりに開催したNPO法人かるがもCPキッズの対面イベントの様子。インクルーシブ遊具のある都内の公園で、車いすに乗った子どもやパパママが交流を楽しんだ/江利川さん提供

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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 私が運営しているNPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)は、今月7周年を迎え、8年目に入りました。きっかけは、私の思いつきでひとりで始めたブログだったのですが、2022年8月現在、かるがもCPキッズは会員登録数が350組を超える団体になりました。この7年間、私がずっと大切にしてきたことは「つながり」です。

 今回は、つながることの意味について書いてみようと思います。

■ハワイの生活をブログ発信

 法人を設立する前の2014年の冬休み。私は子どもたちと一緒にハワイにいました。

 当時は日本で生活をしながら長期休みにハワイを訪れ、足が不自由な息子の就学のために移住するべきかを真剣に考えていた頃です。アメリカではインクルーシブ教育が当然ですが、日本では通常学級に入るためには、家族がさまざまな部署に出向いて交渉しなければならず、そのことに苦痛を感じていました。周りに障害のある子どもを育てる家庭はなく、我が家のありのままの話ができる相談相手は、主治医やリハビリのセラピストばかりでした。専門家の見解はとても参考になり有難い存在でした。でも、他のママたちはどうやってこの状況を乗り越えているのか気になりました。「こんな思いをしているのは私だけではないかもしれない」と、自分自身の記録もかねて、ハワイでの生活をブログで発信してみることにしました。

■知的レベルに合わせた就学先を

 まずは自己紹介や家族構成と、就園や就学に関することを中心に書き始めました。

 絶望の中で渡米したはずが、ハワイは障害のある子どもを育てる家庭に恵まれた環境であること、アメリカは身体の障害の程度ではなく知的レベルに合わせて就学先が決まること、息子が通ったプリスクールでは「できない」よりも「できる」ことに焦点を当ててくれたこと、日本でも、学ぶ力のある子どもたちが、通常学級で一緒に過ごせるシステムを確立するにはどうすれば良いのかと考えていること……。

 初めはひとりごとのようなブログでしたが、そのうちに反響が出てきました。コメントを通じてやりとりを始めたママたちはみんな、子どもの就園や就学に不安があり、どこに相談すれば良いのかもわからず、孤独を感じながら生活していました。

「同じ境遇」というのは、お互いに安心できる存在です。そのうちにコメント欄が少しずつ広がり、ブログの中で小さなコミュニティができました。

 ひとりも本名を知らないという不思議な関係でしたが、この頃の私は、このコミュニティをとても身近に感じていました。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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