持ち家を持つ親の「実家じまい」をめぐり、子どもが悪戦苦闘している。滞りなく進めるには、親が元気なうちから早めに準備をしておくことが大切だ。AERA 2022年8月15-22日合併号では、「実家じまい」のリアルを取材した。

いきなり「しまう」ことを考えるのが難しければ、親が元気なうちにまず「片づけ」から始めよう(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
いきなり「しまう」ことを考えるのが難しければ、親が元気なうちにまず「片づけ」から始めよう(撮影/写真映像部・高橋奈緒)

*  *  *

 京都市の会社員の女性(43)は2015年秋、北陸地方の実家を新婚のいとこ夫婦に譲った。

 その4年前の11年3月末、建築士だった父が60歳で突然、亡くなった。実家は二世帯住宅。当時、女性と兄(45)は都内で働いていて、母(74)が2階に、下には祖母が残された。嫁姑の仲は良好とは言えず、ほどなくして母は上京。女性と一緒に暮らし始めた。

 父は実家の一部屋を仕事場にしていた。仕事の資料を一定期間保管しなければならない法律上の規定もあり、ほとんど片づけをしないまま、2階の権利は長男である兄が相続した。

 15年、いとこが結婚。新居にしたいから、2階の権利を譲らないかと打診があった。祖母は叔父が引き取るという。女性は、

「このタイミングを逃してはいけないと思った」

 と、兄に実家を手放すことを相談。母は嫌がるだろうと思いつつ、兄と一緒に切り出すと、

「あそこはお父さんとお母さんが苦労してローンを返した家なのよ! 勝手に決めないで!」

 案の定、母は激怒。けれど、すでに暮らしていないことに加えて、年間約15万円の固定資産税を払い続けている兄の負担も大きい。「下の世代のためにも手放さないか」と説得すると、しぶしぶ納得してくれたという。

■5年がかりで完了

 片づけは「仕事を長期間休めないし、感傷にひたるエネルギーもない」から、地元の業者に約30万円で依頼。基本的にすべて処分した。

 その後、女性は結婚し、夫の勤務地である京都市に母も一緒に移り住んだ。現在、がんで療養中の母は、娘のそばで暮らせることに感謝しているという。

 いま、持ち家率が8割を超える団塊世代が70歳を超え、あちこちで「実家じまい」が始まっている。

 文筆家の松さや香さん(45)は昨春、5年がかりで「実家じまい」を完了させた。

著者プロフィールを見る
古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

古田真梨子の記事一覧はこちら
次のページ