『いつもポケットにショパン』の麻子と季晋の子ども時代と成長した姿を描いたイラスト。全集1巻に収録
『いつもポケットにショパン』の麻子と季晋の子ども時代と成長した姿を描いたイラスト。全集1巻に収録
 熱狂的なファンを持つ、漫画家・くらもちふさこさん。電子書籍で刊行された初の全集について聞いた。AERA2022年8月15-22日合併号の記事を紹介する。

【『くらもちふさこ全集1』のカバーデザインはこちら】

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「アイデアが面白いとのっちゃうんですよね。逆に言えば、やらずにはいられない(笑)。面白いというのは私の中では遊び心に近い。遊びって楽しいってことですよね」

 そう語るのは、少女漫画家・くらもちふさこさん(67)。1972年のデビュー以来、第一線で作品を描きつづけてきた。くらもちさんの唯一無二の表現はカリスマ的な人気を誇り、長年のファンとともに漫画家からも熱烈に支持されている。

 デビュー50周年を迎える今年、東京都文京区の弥生美術館では1月末から4カ月にわたり原画展が開催された。初期から最新作まで、3回の展示替えをしながら約400枚の原画が並んだが、それでも展示できたのはごく一部だ。

 くらもちさんのカラー原稿の魅力は、美しさだけではない。

 新しい画材や大胆な色合わせへの挑戦、段ボールなど異質な素材を組み合わせる試み──。少女漫画の表現の可能性を、楽しげに広げてきた存在でもあるのだ。

 原画展は終了したが、別の形で、くらもちさんの美しいカラー原画に出合えることになった。この7月から、電子書籍『くらもちふさこ全集』の配信が始まったのだ。

■しんどさ忘れる人間

 全集では「わるいおとこ」「年上のひと」などテーマを立てて作品を編み直した。1千ページ近いボリュームになる巻もある。

 もう一つの目玉は、雑誌掲載時のカラーページはもちろん、予告カットにいたるまで、カラー原稿なことだ。

「昔は(雑誌連載で)カラーページをよく描いていたんです。50ページ中8ページがカラーというのが、一番多かったと思います。若かったし、『描ける?』と編集に聞かれたら、『はい、できます』と即答していました。今はもうできませんけれど。描いているあいだは死にものぐるいだったんですが、産みの苦しみと一緒で、仕上がるとしんどかったことは忘れて『はい、次」と、思う人間なんですよ(笑)。だからこれまで昔のことは振り返ってこなかった。今回、思わぬ形で全集を出していただけることになって、驚いています」

 と、くらもちさんは語る。

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