飲食店二階の窓から約40パーミルの学習院坂を下る都電を狙った。明治通りを行き交うバスやトラックが都電と被ぶらないことを念じてシャッターを切った。学習院下~面影橋 キヤノンEOS-1D MarkIV EF24-105mmF4L IS (58mm) 1/100秒f11 ISO100(撮影/諸河久:2012年4月7日)
飲食店二階の窓から約40パーミルの学習院坂を下る都電を狙った。明治通りを行き交うバスやトラックが都電と被ぶらないことを念じてシャッターを切った。学習院下~面影橋 キヤノンEOS-1D MarkIV EF24-105mmF4L IS (58mm) 1/100秒f11 ISO100(撮影/諸河久:2012年4月7日)

 1960年代、都民の足であった「都電」を撮り続けた鉄道写真家の諸河久さんに、貴重な写真とともに当時を振り返ってもらう連載「路面電車がみつめた50年前のTOKYO」。前回は坂路を利用した「浮かし撮り」の話題を紹介した。今回から路面電車の走行感を強調する鉄道写真の代表的なテクニックである「流し撮り」のノウハウを解説しよう。

【諸河カメラマンが撮影した函館市電やとさでんなど貴重な「流し撮り」はこちら(計5枚)】

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「流し撮り」とは走っている被写体(路面電車)を画面の中で止めて、周辺の景色を流してしまう撮影テクニックだ。路面電車の走行感を強調した印象的な作品表現ができる。

 いっぽう、近年普及したLED仕様の行き先表示器を装備した路面電車では、車体を写し止めるために必須な1/500秒などの高速シャッター速度を選択すると、LED表示文字が切れたり、欠けたりする現象が発生するようになった。1/125秒や1/60秒の遅いシャッター速度を選択し、今回の流し撮りや次回紹介する「露光間ズーム流し撮り」のテクニックを応用すれば、車体を写し止めたうえにLED表示文字もしっかり再現できる。

二つのケースの「流し撮り」

 流し撮りを大別すると二つのケースが考えられる。

A. 撮影者は静止していて、路面電車の進行方向に向けてカメラを構え、腰を回転させるようにしてシャッターを切る。

B. 路面電車と同じ方向に走る電車や自動車の中からカメラを構え、シャッターを切る。

 両者のうちでAのケースが一般的な流し撮りといえよう。Bのケースは被写体の電車を並行して走る電車や自動車などで追いかけながら撮影する方法だ。いずれの場合でも遅いシャッター速度で路面電車の動きを同調させると走行感に溢れた作品をモノにできる。

 冒頭の写真は、Aのケースによる流し撮りで、都電荒川線(東京さくらトラム)学習院下付近を早稲田終点向けて快走する7000型を狙った。画面手前の荒川線と並行する明治通りに沿った飲食店の二階からデジタル一眼レフのシャッター速度を1/100秒にセットし、進行方向である車体右側運転台付近にキッチリ同調させている。

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諸河久

諸河久

諸河 久(もろかわ・ひさし)/1947年生まれ。東京都出身。カメラマン。日本大学経済学部、東京写真専門学院(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。鉄道雑誌のスタッフを経てフリーカメラマンに。「諸河 久フォト・オフィス」を主宰。公益社団法人「日本写真家協会」会員、「桜門鉄遊会」代表幹事。著書に「オリエント・エクスプレス」(保育社)、「都電の消えた街」(大正出版)「モノクロームの東京都電」(イカロス出版)など。「AERA dot.」での連載のなかから筆者が厳選して1冊にまとめた書籍路面電車がみつめた50年 写真で振り返る東京風情(天夢人)が絶賛発売中。

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「流し撮り」成功の秘訣とは?