天然資源がないフィンランドには「木と人の頭しかない」ということわざがある。教育の重要性が浸透している(photo アフロ)
天然資源がないフィンランドには「木と人の頭しかない」ということわざがある。教育の重要性が浸透している(photo アフロ)

 世界幸福度ランキングは1位のフィンランドは、個性を尊重し相手の価値観に立ち入らない文化が生きやすいとも言われている。社会保障制度はどうなっているのか。AERA2022年8月8日号から。

【データ】フィンランドってどんな国?幸福度やジェンダー平等、高齢化率などを日本と比較!

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 フィンランドを語る時、欠かせないのは教育だ。小中学校の義務教育は、給食や鉛筆1本に至るまで完全無償だ。高等教育も授業料は無料。塾に通わなければならないような受験競争もない。

「ただ、習い事はとても高額。部活動がないので、趣味をするとなると何かしらのサービスを使うしかないが、人件費が高いから月謝が高い。趣味ができない子どもがいる」

 ヘルシンキから西に45キロの町シウンティオでリロケーション会社を経営する三橋メリオルト智美さんはそう話す。北海道出身で、フィンランド人の夫と結婚した。2人の息子はそろってサッカーに熱中し、次男はプロのサッカー選手になった。子どもたちの夢を応援してきたが、サッカーのコーチ料などは決して安くはなかったという。それでも三橋さんはこう考える。

「どの子も趣味ができる機会を与えようという議論がある。常に『機会の平等』が価値観のベースにあり、子育てしやすく、暮らしやすい」

 フィンランドの教育事情に詳しい津田塾大学の渡邊あや教授(比較教育学)は、

「平等性は北欧諸国の共通の価値観。特にフィンランドでは、機会均等の重要性を社会全体が信じている。社会的な価値として受け入れ、政治レベルで落とし込んでいく国民的合意が取れている」

 と評価する。だが、歴史を振り返れば、「平等」主義に揺らぎが生じたこともあったという。

「90年代には経済界を中心に平等志向に対する批判が起こりました。これからの時代は、トップ層の才能を伸ばす教育が必要だとされたのです」(渡邊教授)

 だが、経済協力開発機構(OECD)が実施する学習到達度調査(PISA)で、フィンランドは初調査となった00年に読解力1位、数学4位、科学3位に。この結果に一番驚いたのは、フィンランド人だった。現状の平等に基づく教育環境が肯定され、改革派の声が沈静化されたという。

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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