東京・千駄ケ谷は都心でありながら閑静な街。この地に建てられた将棋会館では、羽生善治をはじめ、多くの棋士たちが名勝負を繰り広げてきた(photo 写真映像部・松永卓也)
東京・千駄ケ谷は都心でありながら閑静な街。この地に建てられた将棋会館では、羽生善治をはじめ、多くの棋士たちが名勝負を繰り広げてきた(photo 写真映像部・松永卓也)

 AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。渡辺明名人、森内俊之九段(十八世名人資格者)、「初代女流名人」の蛸島彰子女流六段らに続く17人目は、「永世七冠」の羽生善治九段です。発売中のAERA 2022年8月8日号に掲載したインタビューのテーマは「私とファン」。

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 4月2日、朝8時23分。新年度を迎えたばかりの将棋界は、ある一つのツイートによって騒然となった。

「将棋棋士の羽生善治です。Twitter(ツイッター)始めます。どうぞよろしくお願い致します」

 以上はまぎれもない、レジェンド・羽生善治九段本人から発信されたつぶやきだ。時間を「はぶさん」にそろえてくるあたりもしゃれている。

「こちらはまだ試行錯誤っていうところです(笑)」

 羽生は将棋界の枠を超え、広く世に知られる存在だ。約25万人のフォロワーの中には将棋のルールを知らない人も多いだろう。羽生は「動物と学ぶ将棋講座」と題して、ツイートで丁寧に解説する。

「銀・金・玉を動かし盤石の基礎を築く雁木のイメージ動画です」

 そこでは羽生家の一員・茶兎のゆきが巣でくつろぐ様子が映されている。

「桂馬を跳んだ後は、隣りに銀を置きましょう。これでお互いにサポートが出来ます」

 こちらは白兎のラムネとれもんの画像。難しい解釈は必要なく、ただ「兎かわいい」と感じればいいようだ。

「家内がすごい動物好きで。ツイッターも先に彼女のほうがやってたことでもあるんですけど。将棋の話だけだと、やっぱりちょっと味気ない気もするので。ところどころで(兎が)入ってる感じです(笑)」

 羽生は革命児だ。1996年、史上初の全七冠制覇で「羽生フィーバー」が起こり、将棋界は社会的にも注目された。2017年には「永世七冠」も達成し、18年に国民栄誉賞を受賞した。そして現在は藤井聡太竜王(20)ら後に続くスターも登場し「見る将棋ファン」と呼ばれる人も増えた。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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