繭作り用の器具である蔟(まぶし)に蚕を移す「上蔟(じょうぞく)」のため、桑の葉から蚕をはがす天皇ご一家=6月1日、皇居内の紅葉山御養蚕所(写真:宮内庁提供)
繭作り用の器具である蔟(まぶし)に蚕を移す「上蔟(じょうぞく)」のため、桑の葉から蚕をはがす天皇ご一家=6月1日、皇居内の紅葉山御養蚕所(写真:宮内庁提供)

 宮内庁は「ご家族での養蚕写真」を公開した。英国王室とも比較しながら、独自の視点で皇室の広報のあり方を考える。AERA 2022年8月1日号の記事から。

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 宮内庁が7月14日、天皇陛下雅子さま愛子さまが皇居内の紅葉山御養蚕所で養蚕に取り組む写真を5点、公開した。

 歴代皇后が受け継ぎ、雅子さまも2020年から取り組んでいるご養蚕だが、陛下と愛子さまが参加したのは今年が初めて。カジュアルな装いで、いつもと違う素顔のご一家が写っている。

 日本テレビはこのニュースで、紅葉山御養蚕所元主任の代田丈志さんに話を聞いていた。「非常に和やかで楽しそうですし、カメラに撮って私がネットにアップしたいくらい。すごくいい家族だなと」と代田さんはニコニコと語る。見ているこちらもニコニコ顔になってくる。

「インスタで見たい」

 同時に激しく共感したのが、「ネットにアップしたいくらい」という言葉。陛下のボタンダウンのシャツ、雅子さまのダウンベスト、愛子さまの可愛いブラウス……この写真、インスタグラムで見たい! と思うのだ。

 というわけで、「天皇ご一家と蚕とインスタと」という話を書かせていただく。

 そもそも皇室における養蚕は1871年、昭憲皇太后から始まる。雅子さまへバトンタッチした美智子さまはとても熱心で、『皇后さまの御親蚕』(04年刊)、『皇后さまとご養蚕』(16年刊)と2冊の本も出ている。『皇后さまとご養蚕』からは、美智子さまもご家族と一緒に養蚕に励んでいたことがわかる。

 小学校3年生だった眞子さま(現在の小室眞子さん)宛ての「眞子様へのお手紙」が中に収録されていて、「眞子ちゃんは、ばあばがお蚕(かいこ)さんの仕事をする時、よくいっしょに紅葉山(もみじやま)のご養蚕所(ようさんじょ)にいきましたね」などとある。だが、美智子さまの養蚕に関する写真は単独のものばかり。「皇后が受け継いでいく伝統」だからかもしれない。

 その意味で今回公表された「ご家族での養蚕写真」は前例がないもので、そこに宮内庁の「広報戦略」が感じられる。新型コロナウイルスのせいで遠くなってしまった「国民との距離」。それを取り戻そうという作戦に見えるのだ。

皇室報道に危機感

 コロナ禍も3年目になり、陛下と雅子さまの公務は皇居からの「オンライン出席」や「オンライン視察」がデフォルトになった。そしてこの間の皇室報道は眞子さん結婚問題ばかりが目立ち、宮内庁にも危機感があるのではないだろうか。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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