星野リゾート トマム 雲海仙人・鈴木和仁(写真:星野リゾート トマム提供)
星野リゾート トマム 雲海仙人・鈴木和仁(写真:星野リゾート トマム提供)

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2022年7月18-25日合併号の記事を紹介する。

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 広い北海道のほぼ真ん中、占冠村にある「星野リゾート トマム」。冬のスキーシーズンが終わり、山々が緑に変わる頃、新たな観光シーズンが始まる。訪れる人たちのお目当ては標高1088メートルにある「雲海テラス」だ。

 朝日が差し込む幻想的な雲海を存分に見ることができる絶景スポットで、屋内カフェ「雲Cafe」などがあり、2021年秋には、累計来場者数が130万人に達した。このテラスの発案者だ。

 南富良野町で生まれ育った。陸上自衛隊で2年間働いた後、スキー場の索道(ゴンドラやリフト)整備の仕事に就いた。幼いころから自然や野生動物が好きで、趣味は釣り。自然の中で働きたいとの思いからだった。

 実直に仕事をしてきたが、勤務先はバブルの崩壊とともに経営破綻(はたん)。04年、星野リゾートが運営を開始し、再建に臨むことになった。

「若いスタッフが多いと聞いて、正直ついていけないんじゃないかと不安だった」

 と振り返る。だが、違った。早速始まった施設の魅力を考える会議で、山頂付近で何度も目にしてきた雲海を宿泊者にも紹介したい、と提案すると採用された。

 05年夏、「山のテラス」としてスタート。翌年、雲海テラスが本格稼働した。現場の声に耳を傾けてもらえたという喜び。だが、実は当初は乗り気ではなかったという。

「だって朝早いから(笑)。それにゴンドラのことも心配でした。夏も動かし続けるとどうなるのか、と」

 雲海を見ることができるのは早朝から午前9時ごろまで。テラス営業期間の起床は午前2時半だ。雲海案内人という新たな仕事に向き合いながら、ゴンドラの整備計画を整えた。天気予報や風、気圧などのデータに加え、長年培ったカンを基に独自の「雲海予報」も編み出した(現在は、日本気象協会が雲海発生確率を予測)。

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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