みうら・あつし/1958年生まれ。マーケティング誌編集長、三菱総合研究所を経て、カルチャースタディーズ研究所設立(写真=本人提供)
みうら・あつし/1958年生まれ。マーケティング誌編集長、三菱総合研究所を経て、カルチャースタディーズ研究所設立(写真=本人提供)

 便利で速くて安いものが増えた一方、現代人の孤独感は高まっている。なぜ孤独を感じやすくなったのか、解消するにはどうすればいいのか。AERA 2022年7月18-25日合併号で、マーケティング・アナリストの三浦展さんが語る。

【写真】三浦展さんの『永続孤独社会 分断か、つながりか?』はこちら

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 40年間、消費社会を研究してきました。「最も良かった時代はいつか」と聞かれたら、間違いなく1983年でしょう。東京ディズニーランドが開業した年で、当時、僕は25歳。給料はどんどん上がっていたので、職場で嫌なことがあっても、耐えることができた。頑張れば報われるから「パワハラ」にも耐えることができました。

 あの頃は、欲しいものがたくさんありました。僕も82年にビデオデッキを15万円で買い、翌年にレーザーディスクプレーヤーをまた15万円で買いました。マーケティング誌の編集をしていましたが、書きたいテーマもいくらでもありました。

 円がまだ安く、海外旅行は憧れだったけれど、日本は最強だと信じることができ、暮らしが充実していました。みんなが欲しいと思うものがあり、多くの人が孤独を感じずに生きることができた時代だったと思います。

 変化を感じ始めたのは98年。欲望の低下が起き始め、次第に上流と下流に分化していくという予測を、2005年に著書『下流社会』にまとめました。野心がなく、意欲の低い若者の中から、下流化する人たちが増えていくと感じたからです。

 なぜ「下流」は生まれたのか。その一因は欲しいものが何もない時代になってしまったからです。

 100円ショップに行けば、たいていのものはそろってしまう。ファストフードや安価なレストラン、コンビニフードが増え、いつでもどこでも食べられる。見たい映画やドラマもいつでも見られる。便利で速くて安いものが増えた一方で、どうしても欲しいものはなくなりました。

 結婚も恋愛もセックスも、してもしなくてもよくなり、欲望は個人化して、みんなが欲しいと思えるものがなくなりました。その結果、次第に孤独を感じる人が増えてきたのではないでしょうか。

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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