第一園芸フラワーデザイン課課長 デザイナー・志村紀子(photo 写真映像部・松永卓也)
第一園芸フラワーデザイン課課長 デザイナー・志村紀子(photo 写真映像部・松永卓也)

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。

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 記念日やお祝いの場を鮮やかに彩る花。一度しかない大切な時に贈られることが多いからこそ、商品ができあがるまで一切妥協はしない。

 一貫したその姿勢は、外資系の高級ホテルでウェディング会場の装飾を担当したり、帝国ホテルプラザに入るショップで店長を務めたりした時に身につけた。「絶対に失敗しないでね」。品格のあるホテルを選んだ依頼主が求めるレベルは、当然高い。そのプレッシャーを、すべて自分の力に変えてきた。

 欠かせないのは、依頼主への丁寧なヒアリングだ。

 花の色や形が一本一本違うように、依頼主が求めるものも一人一人違う。花を贈ろうとしている相手は普段、どんなものを身につけていて、どんな色が好きなのか。イメージを聞き取り、花の種類や大きさ、色合いを探っていく。

 色、と一言で言っても、選ぶのは簡単ではない。濃いのか薄いのか、明るい感じなのか落ち着いた感じなのか。依頼主の言葉の端々やちょっとした表情から贈り先への思いをくみ取り、提案する。

「じゃあ、お任せしますと言ってもらえたら、信頼してもらえたってことかな」

 ここまで徹底するのには理由がある。ある程度の仕事を任せてもらえるようになった20代後半、忘れられない失敗をしてしまったのだ。母の日に贈りたいという案件で、自分がすてきだと思う物を作り上げて渡したが、好みが全く違っていた。

「若さもあって思い上がっていた。好みは人それぞれと思い知らされました」

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