人工妊娠中絶を憲法で保障された権利として認めない判決を言い渡した米連邦最高裁の前に、多くの人が抗議のため集まった/6月25日(写真:Anadolu Agency via Getty Images)
人工妊娠中絶を憲法で保障された権利として認めない判決を言い渡した米連邦最高裁の前に、多くの人が抗議のため集まった/6月25日(写真:Anadolu Agency via Getty Images)

 ウクライナ危機をめぐり、米バイデン政権の対ロシア政策に変化の兆しが見える。背景には、高インフレや女性の中絶の権利を奪う司法判断など米社会の混乱がある。AERA 2022年7月11日号の記事を紹介する。

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 今年4月8日、大リーグのニューヨーク・ヤンキースは、シーズン開幕のセレモニーをウクライナの伝統衣装を着た女性が歌うウクライナ国歌で始めた。ヤンキー・スタジアムにウクライナ国旗が翻った。

 約3カ月後の今、ニューヨークの街や市民の営みから、ウクライナ支援の一体感はもう見られない。レストランなどが店頭に掲げた青と黄色のウクライナ国旗は、色あせた。米メディアによる戦場報道も激減した。

 バイデン大統領とホワイトハウスからも、ウクライナ関連の情報発信は鳴りを潜めている。繰り出したウクライナへの軍事支援は総額61億ドル(約8300億円)を超えたものの、「弾切れ」になりかねない状況だ。

 バイデン氏は6月上旬、米紙ワシントン・ポストの取材に対し、こう述べた。

「私は当初から、ウクライナに関しては同国が参加することなくして、何かを決めることはできないと繰り返し述べてきた。あそこはウクライナ人の土地だ。私が、彼らに何かしろとは言えない。ただし、いずれかの時点で紛争は交渉によって解決されなくてはならない。そこに何が含まれるかについては、分からない」

緊迫している国内事情

 この発言は、(1)米国は交渉による解決を望んでいること(2)解決するのであれば、ウクライナが国土を保全することにこだわらない、つまりロシアによる領土の一部獲得を認めることもにおわせている可能性がある。

 バイデン大統領は2月にロシアのウクライナ侵攻が始まった直後、ロシアのプーチン大統領について「独裁者」「排除すべきだ」という強い発言を繰り返していた。米国と西側諸国は、ロシアのウクライナ侵攻を「主権国家と民主主義への侵略」と位置づけ、強く団結してきた。

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