日米首脳会談後の共同記者会見に臨むバイデン米大統領(左)と岸田文雄首相/5月23日、東京・元赤坂の迎賓館(photo 代表撮影)
日米首脳会談後の共同記者会見に臨むバイデン米大統領(左)と岸田文雄首相/5月23日、東京・元赤坂の迎賓館(photo 代表撮影)

 唯一の同盟国である米国との関係をどう進めるか。日本政治が抱える大きな論点が、「防衛費増額」の大合唱に押されて消えつつある。AERA 2022年7月4日号の記事から。

【防衛力強化で歩調を合わせる岸田首相とバイデン大統領の発言がこちら】

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 ロシアによるウクライナ侵攻が国際秩序を揺るがし、中国の台頭が日本の安全保障を脅かす事態に、与野党とも「日米同盟の強化」「防衛費の増額」の大合唱だ。外交・安全保障の対立軸は保守へ大きくシフトした。

 だが、強化される同盟の先を見据えた議論は乏しい。真に問われるのは、未来に向けた外交の構想力である。

 岸田文雄首相は5月下旬のバイデン米大統領との首脳会談で、日米同盟を強化する方針を確認。日本の防衛力を「5年以内に抜本的に強化」し、防衛費の「相当な増額を確保する」と表明した。防衛費について、国内での議論を積み上げないまま「増額」を他国のトップに約束するという異例の判断である。

 背景にあるのは、ウクライナ危機と中国の台頭だ。軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)に加盟していなかったウクライナがロシアに狙われ、多くの人命を失っている。日本にとっては、日米同盟で他国からの侵略を防ぐ「抑止力」の重要性が改めて認識された。岸田政権はさらに主要7カ国(G7)の一員としてウクライナへの経済支援や避難民受け入れも強化している。

「防衛費増額」の大合唱

 一方で、中国は南シナ海や東シナ海での軍事活動を活発化させ、台湾侵攻の意図も隠そうとしない。中国を「最大の競争相手」と位置付けるバイデン大統領は、今回の首脳会談後の記者会見で台湾防衛に関与する意思を問われ、「イエス」と即答。台湾問題では一歩も引かない姿勢を明確にした。

 バイデン政権は経済、軍事の両面で中国に向き合う。経済面で米国はインド太平洋経済枠組み(IPEF)を新設し、日本やインド、東南アジアの主要国を巻き込んで半導体のサプライチェーンなどを構築していく。米国の東アジア戦略にとって日本の防衛力強化は欠かせない。その要請に応えたのが、岸田首相の「防衛費の相当な増額」といえるだろう。

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