打撃に苦しむソフトバンクの甲斐拓也。だが、捕手としては12球団随一の守備力を誇るとされ、強肩ぶりは「甲斐キャノン」としても知られる
打撃に苦しむソフトバンクの甲斐拓也。だが、捕手としては12球団随一の守備力を誇るとされ、強肩ぶりは「甲斐キャノン」としても知られる

 今季のプロ野球では、ノーヒットノーランを4投手が達成している。一方、3割打者の数はセ・パ各リーグで3人前後。投高打低の状況を専門家はどう見るのか。AERA 2022年7月4日号の記事を紹介する。

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 ソフトバンクのエース、千賀滉大(29)のこんな発言が注目を集めた。

「僕はこの先、3割打者が存在しなくなる時代が来ると思っています」(5月3日付の西日本スポーツ)

「投手はいろいろ勉強し、情報を入れ、トレーニングに生かす環境が整っているから」で、打者は急速に進化する投手に対応するのは容易ではないという。

 解説者の田尾安志さん(68)さんは「そんな時代が来るとは思わない」としつつ、千賀の言葉は打者と投手の「ある意識の差」から来るものではと指摘する。

「バットという道具を使う打者に対し、投手には『体ひとつで勝負している』意識が強い。だからこそ、より高いパフォーマンスをするためにはどうするか打者よりも深く考えているでしょう。ただ逆に、同じように高い意識を持てれば打者のほうがやれることは多く、今度は投手のほうが苦しいと思います」

 筑波大学体育専門学群准教授で野球の投球動作、打撃動作やゲーム分析も行っている川村卓さん(52)さんも、投高打低と打高投低の状況は「交互に繰り返されてきた」のが常だと言う。

「ただ、その進化のサイクルはいつも『投手が先』。打撃の本質は、投手の球への『対応』だからです。投手の進化に遅れるような形で打撃の進化が来る。長い目で見れば、日本のプロ野球は『いまは』投高打低ということだと思います」

 こんな可能性もある。1982年に1割9分6厘だった巨人の捕手・山倉和博以来、40年ぶりの「規定打席数に達したうえでの1割打者誕生」だ。ソフトバンクの捕手・甲斐拓也(29)ら「危険水域」の選手が存在する。

 田尾さんはこう考える。

「今季はノーヒットノーランがまた出てもおかしくないし、1割打者誕生もあり得るでしょう。でも、そこを『されないように』やっていくのがプロの打者。毎試合出る選手なら2割5分は絶対に打たないといけない。奮起を期待したいです」

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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