出産当日の産院ディナー。がっつりステーキにチーズケーキ。スパークリングワイン(ノンアルコール)もついていました(画像/筆者提供)
出産当日の産院ディナー。がっつりステーキにチーズケーキ。スパークリングワイン(ノンアルコール)もついていました(画像/筆者提供)

 アメリカで出産してよかったことは? と聞かれるとたくさんありますが、ひとつには産院のごはんが豪華だったことでしょうか。朝昼晩3食、メインディッシュ・サイドディッシュ・スープ・デザート・飲み物を各5種類の中から選べて、ということは2年半入院しても毎食違う組み合わせの献立が食べられる?! と計算して興奮したりしました(産後ハイ)。入院中はほとんどベッドの上から動けず赤ちゃんのリズムに合わせた生活を送るので、食べるものだけでも自分の意思で選び取れることが心の風通しをよくしてくれたように思います。

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 メインディッシュは、ステーキ、フライドチキン、グリルドサーモン。デザートはチーズケーキ、チョコレートケーキ、バナナプディング。食事の写真を見せると、日本の人には目を丸くされます。「産後すぐこんなに甘くて脂っこいものを食べて大丈夫? 母乳詰まったりしないの?」と。

 確かに日本では、母乳育児を進めようとするとこんなふうに言われることが多いです。「おっぱいはお母さんの食べるものでできているんですよ。だから脂肪分や糖分は控えて、和食中心で過ごしましょうね」。私は一人目と三人目を日本で、二人目をアメリカで出産したのですが、特に一人目を出産した母乳育児推しの産院ではそんなふうに指導されました。産院の食事ももちろんあっさり和食で、間違ってもがっつりステーキなんて出ませんでした。

 だからアメリカの産院ごはんを見たときには、喜びつつもおっかなびっくりでした。こんなに食べて大丈夫? と。不安になり、病院に所属するラクテーション・コンサルタントに疑問をぶつけてみました。

 ラクテーション・コンサルタントとは、母乳育児の専門家です。出産するとすぐ病室にやってきて、授乳のポジションやタイミング、母乳量を増やす方法などを指導してくれます。退院したあとも、病院で定期的に開かれている集団相談会や個別相談に行けば指導を受けられます。5年ごとに試験を受けて合格した人のみが名乗れる資格で、看護師や助産師と兼任している人が多いようです。2016年時点で全世界に2万8千人超おり、その半数以上の約1万5千人がアメリカ在住。アメリカで産まれてくる赤ちゃんの人数は1日に約1万人だそうなので、単純計算では産婦さん全員を毎日指導できるだけの人数のコンサルタントがいることがわかります。

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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百戦錬磨のおばあちゃん