※写真はイメージ(gettyimages)
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 健康診断を先延ばしにし、病気を指摘されても放置する──。そんな人こそ、健診の役割や数値の危険度を理解する必要がある。AERA 2022年6月27日号の記事から紹介する。

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 健診結果に赤や黄色の信号がともっても「まあ、いいか」と放置する人も少なくない。順天堂大学大学院先端予防医学・健康情報学の福田洋特任教授は、自分の健康状態を理解する「ヘルスリテラシー」を身につけてほしいと言う。

「体温が40度になったら誰でも危ないと思いますよね。それを健診の数値でも感じてもらいたいんです」

 働き盛り世代では、健診で異常が見つかっても、糖尿病の5割、高血圧の7割、脂質異常の9割の人が治療していないという。血圧が200という危機的な状況にある人でも、やはり7割が治療していない。仕事が忙しい、自覚症状がない、面倒くさいといった理由だ。

 福田教授は中性脂肪が1050の人と面談したことがある。基準値は150未満で500以上はレッドカードなのだが、本人は「去年は1200だったから改善したよ」とまるで危機感がない。彼の血液を遠心分離器にかけると、血漿(けっしょう)が脂で白くにごった「乳(にゅう)び」が見られた。

「家系ラーメンのスープのようなインパクトの実物を見せて初めて危機感を持ってもらえた。どのぐらいがあぶない数値なのか実感できるようになってほしい」(福田教授)

 予防医学・疫学を専門とする東北大学東北メディカル・メガバンク機構の寳澤(ほうざわ)篤教授は、日本人の長寿を支える要因の一つが健診だと言う。

 健診を受けた人、受けなかった人を11年にわたって追跡調査したところ、受診者は死亡率が3割も低かった。特に循環器系疾患で差が大きく、3~4割も死亡率が減少した。そもそも受診者は健康に気をつけている人という健康意識の差を取り除いて計算した結果だ。

「健診を受けることで確実に病気のリスクが下がる。血圧やコレステロールで病院にかかると医師からの指導が入るので、他の病気を減らすことにもつながるんです」(寳澤教授)

 海外では具合が悪くなったら病院に行けばいいという国が多く、日本のような健診制度がある国は珍しい。早期発見、早期治療を進めれば、日本人の健康寿命はまだまだ延びると寳澤教授は考えており、せっかくの機会を逃さず、通常の健診と5大がん(肺がん、胃がん、大腸がん、子宮がん、乳がん)の検診を受けることを勧める。

「重症化してひどい目にあってから病院に来られる方は、なぜもっと早く治療しなかったのかと口をそろえる。大病してもなお『健診を気にしないのが自分の人生。悔いはない』と言える人には会ったことがないですね」

 将来もっとつらい思いをする前に、健診結果という“不都合な真実”を直視してみてはどうだろう。(ライター・仲宇佐ゆり)

AERA 2022年6月27日号より抜粋