哲学者の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、倫理的視点からアプローチします。
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ある大学で社会人対象の夜学を担当している。今期は「西部劇に見るアメリカの分断」がテーマ。第1回は「シェーン」を選んだ。映画の舞台は南北戦争後のワイオミング。1862年にリンカーンは「ホームステッド法」という法律を発令した。公有地に定住して5年間農業を営んだ者に無償で160エーカーの土地を与えるというまことに気前の良い法律である。おかげで、ヨーロッパから自営農をめざす移民が流入して、西部開拓が一気に進み、アメリカの資本主義はみごとテイクオフを果たした。
流れ者のガンマン、シェーンが逗留(とうりゅう)することになった農夫スターレット一家とその仲間たちは「ホームステッダー」である(映画の中でもそう呼ばれている)。彼らと敵対するのは、久しくこの土地で牛の放牧をしてきたライカー一家である。原野を切り拓(ひら)き、過酷な環境に耐え、ようやく人間が暮らせる場所にしたという自負を持つカウボーイのところに、ある日移民たちがやってきて、土地を囲い込んで、「私の土地に牛を入れるな」と言い出した。
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