AERA 2022年6月20日号より
AERA 2022年6月20日号より

 理研からは就業規則に基づき雇い止めをし、研究室をクローズするという連絡が来ただけだ。具体的な説明は一切ないという。

 雇い止めの背景にあるのが、13年4月に施行された改正労働契約法だ。

 契約期間が通算5年を超えた人は、定年まで働ける無期転換に移れる「5年ルール」が導入された。ただ、大学や研究機関は特例として5年ではなく10年とする「10年ルール」が定められた。同法は本来、安定した雇用を労働者に提供するもので、権利を得た社員が無期雇用への転換を希望すれば雇う側は拒めない。しかし、5年ルールの運用が始まる直前に会社が雇い止めにするケースが絶えず、契約を更新されなかった労働者が訴訟を起こす事例が各地で起きている。

 理研は16年4月、就業規則を「10年を超える契約はしない」と変更し、雇用開始の起算日を13年4月かそれ以降とした。理研によれば、これにより約200人(22年4月現在)が来年3月末に雇用上限を迎えて雇い止めとなる。理研労働組合によると、約200人のなかに約50人の研究室主宰者が含まれ、それにともなって研究室で働く多くの職員も仕事を失うという。

 同労組執行委員長の金井保之さんは、雇い止めは10年ルールの適用を意図的に避けるための雇用上限の導入だと批判する。

「少なくとも来年3月末での雇い止めは、理研が就業規則を改定した16年4月より前に採用された職員を対象としていて法的に無効。そもそも、雇用の上限も撤廃すべきです」

 理研の広報室は取材に対し、こう答えた。

「研究力を維持・発展させるため無期雇用職員の公募・採用を進めており、有期雇用職員による流動性と無期雇用職員による安定性、双方を兼ね備えた人事制度を運用している」

 だが、先の男性研究者は言う。

「雇い止めとなれば研究は中止となり、研究の継続的な発展ができない。競合するアメリカや中国など、諸外国から立ち遅れてしまう。基礎研究は雇用が安定して精神的に落ち着いた環境でないと難しい。それが10年で雇い止めされるとなると、研究機関としての魅力がなくなり理研で研究したいと思わなくなる。すでに海外に職を求める若者も出ている。近年、日本の科学技術力は後退の傾向にあるが、さらに拍車がかかると思います」

 厚生労働省によれば、コロナ禍に見舞われた20年2月から今年4月末までに解雇や雇い止めになる可能性のある非正規労働者は、全国のハローワークに届け出があっただけで約6万人に上った。(編集部・野村昌二)

AERA 2022年6月20日号より抜粋

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら