仕事の対象は、森羅万象。一人でどこへでも向かい、社会にあるさまざまな「間」をサイエンスで橋渡しする(撮影/MIKIKO)
仕事の対象は、森羅万象。一人でどこへでも向かい、社会にあるさまざまな「間」をサイエンスで橋渡しする(撮影/MIKIKO)

 科学コミュニケーター、本田隆行。天文学者になりたい。その夢を追いかけて惑星科学を学び、大学院生のときは、はやぶさのプロジェクトにも参加した。だが、研究者の道は断念。代わりに覚悟を決めて飛び込んだのが、サイエンスコミュニケーションの世界だった。使命は、科学と社会をつなぐこと。日本中の「わからない」に耳を傾け、科学的に考えるためのヒントを届ける。

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 ディレクターからキューが飛ぶと、本田隆行(ほんだたかゆき)(39)の朗々とした声が室内に響いた。

 その日、本田がいたのは、東京都小金井市にある情報通信研究機構の一室。同研究員とゲストクリエーターら4人によるYouTubeトーク番組のファシリテーションを任されていた。

「見えないものを見るために、何が必要ですか?」

 本田からの問いかけに、研究者とクリエーターが、それぞれの立場から意見を述べていく。

「まずはデータを集めないといけません。その中から何を見える化していくかを考えることです」

「私の場合、データから『これは不可能だな』とかは検証せずに、まず作っちゃいますね」

「確かに、とりあえず手を動かして、可視化することで見えてくるものもありますよね」

 本田の問いを起点に、議論が深まりをみせる。

 最初の質問の狙い。それは形なき情報を扱う研究者と、形ある物を作るクリエーターの間に、思考の「接続点」を見いだすことにあった。

「今までにない角度の問いをぶつけることで、新しいアイデアや化学反応が生まれるきっかけができる。科学コミュニケーターの役割は、正解を出すことではなく“つなぐ”ことなんです」

 本田は、全国でも数人しかいないフリーランスの科学コミュニケーターだ。

 仕事の領域は広い。これまでに科学に関する展示のプロデュース、科学イベントの企画・実演・ファシリテーション、メディア出演、書籍の執筆、大学講師と、「科学のことならジャンルを問わず首を突っ込んできた」。その活動が評価され、2017年には日本サイエンスコミュニケーション協会奨励賞の初代受賞者にも選ばれた。

■将来の夢は天文学者 「はやぶさ」にも携わる

 取材中、関係者から異口同音に聞いたのが「『この仕事、誰に頼めばいいの?』ってときこそ、真っ先に本田さんの顔が浮かぶ」という言葉だ。

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