北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請したフィンランド。なぜ軍事的中立から政策転換し集団防衛を決断できたのか。慶應義塾大学教授・廣瀬陽子さんが解説する。AERA 2022年5月30日号の記事から。

【写真】フィンランドのサンナ・マリン首相

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 これまでフィンランドは、ソ連・ロシアと共存するために、ある程度の妥協が必要というメンタリティーでした。大国におもねることを揶揄(やゆ)する「フィンランド化」という言葉も生まれましたが、それは何よりも大切な「独立」を維持する得策だったわけです。

 ですが、ロシアによるウクライナ侵攻は、フィンランドの人々の心に「冬戦争」と「継続戦争」で旧ソ連から受けた痛みを蘇らせました。いま、集団防衛で国を守るという決断ができたのは、中立を保ちつつも軍事力を強化してきたからです。徴兵制を維持し、人口約64万人のヘルシンキ市内には約90万人収容の地下シェルターもあります。だからこそ、NATOに加盟する勇気が持てたのだと思います。

 プーチン大統領は、この展開を予想していなかったでしょう。挑発するメッセージを出していますが、今後は対NATOを意識せざるを得ず、第3次世界大戦につながるので、簡単には手出しできません。

 私は2017年から1年間、ヘルシンキ大学で客員研究員を務めました。母親に優しく、教育と福祉が充実し、幸福度の高い素晴らしい国でした。

 若き女性リーダーであるマリン首相に注目が集まっていますが、外交では大統領に権限があります。かつて女性大統領もいましたし、国民にとっては普通のこと。彼女を輩出した土壌にこそ注目すべきでしょう。

 彼女が先頭に立つことは、国際社会にとって大きなメッセージです。同時に、フィンランドが、さらに高みに向かっていく源泉であるとも思います。

(構成/編集部・古田真梨子)

AERA 2022年5月30日号