コロナ禍でもうすぐ3回目の夏を迎える。マスクが当たり前となった街中の風景はいつ変わるのだろうか=2021年6月、東京都内(撮影/写真映像部・高野楓菜)
コロナ禍でもうすぐ3回目の夏を迎える。マスクが当たり前となった街中の風景はいつ変わるのだろうか=2021年6月、東京都内(撮影/写真映像部・高野楓菜)

 世界で「マスクなし」の動きが広がるなか、日本では是非をめぐる議論が続く。「外では不要」とする専門家が語る、その理由と条件は。AERA2022年5月30日号の記事を紹介する。

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 東京都内の女性(35)は、眉毛を描くのが下手になっていることに気づいて愕然(がくぜん)とした。

「そういえばこの2年、まともに化粧をしていない」

 ゴールデンウィークに男友達とコロナ禍以降初めて会うため、化粧をしようとしたら、腕が落ちていた。ずっと使っていなかった口紅は変なにおいがしたので、やむを得ず捨てた。

「このままマスク生活が続いてほしい」と話すのは、営業職の男性(41)。肌が弱く、ひげそりで肌がひりつく。毎朝つらかったが、マスクで苦行から解放された。今は1週間に1回程度しか、そっていない。

■顔と名前覚えられない

 マスクを歓迎している人もいれば、マスクで苦労している人もいる。

 昨年、新卒で就職した女性は、入社時からテレワーク。先輩や同僚と職場で顔を合わせた回数はごくわずかだ。オンライン会議で顔を見ているのに、リアルではマスクで顔が隠れているので、名前がわからない。取引先も、マスクで印象が残りづらく、顔と名前が覚えられない。親しげに相手から話しかけられると、「この人、どこの何さん?」と戸惑ってしまう。

 フレイル(虚弱)を心配するのは、やや難聴の母親(85)を持つ女性だ。母親はマスクの相手の声が聞き取りづらい。表情が隠れ、唇の動きが見えないのも、聞き取りづらさに拍車をかける。「聞き返すのが嫌」と、母親は家にこもりがちになった。補聴器は「年寄りくさい」と拒否する。2年で足腰がめっきり弱ったように感じている。

 ワクチン接種が進み、重症化しにくいとされる変異株が出てきたことなどから、欧米ではマスク着用義務の撤廃や緩和の動きが広まっている。

 英国イングランドは1月、屋内の公共施設でのマスク着用義務など規制の多くを撤廃。米国CDC(疾病対策センター)は2月、「感染状況の落ち着いている地域はマスク不要。公共交通機関では着用」という指針を発表したが、フロリダ州の連邦判事が「マスク義務づけは違法」との判決を出し、全米で着用義務が無効になった。

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