京都の寂庵で月に一度行っていた法話。多くの人が瀬戸内寂聴さんの話を楽しみにしていた (c)2022「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」製作委員会 
京都の寂庵で月に一度行っていた法話。多くの人が瀬戸内寂聴さんの話を楽しみにしていた (c)2022「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」製作委員会 

 波瀾万丈の人生を歩み、多くの著書を残した瀬戸内寂聴さん。生前の姿を追ったドキュメンタリー映画が、5月27日から全国で順次公開される。大いなる矛盾を抱えて生きた99年の歳月を問う内容に、心が揺り動かされる。AERA2022年5月23日号の記事を紹介する。

【写真】原稿について秘書の瀬尾まなほさんと話し合う瀬戸内寂聴さんはこちら

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 作家の瀬戸内寂聴さんが100歳を目前に死去して半年。彼女の生き様を描いたドキュメンタリー映画「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」が完成した。

 監督は「NHKスペシャル いのち 瀬戸内寂聴 密着500日」や「アナザーストーリーズ 運命の分岐点 愛を生き切った人~瀬戸内寂聴の99年~」(いずれもNHK総合)などを制作した中村裕さん(62)。

 全国を飛び回る瀬戸内さんを追いかけ、寂庵(じゃくあん)のダイニングキッチンにまで小さなカメラを持ち込んで共に飲み食いし、時には酔ったままで会話をする様を撮り続けた。300時間にも及ぶ映像と、ほかの取材記録とともに編集したのが本作である。

 2人の初めての出会いは、特に彼が強く願ったものではなかったという。

「2004年にMBSの番組『情熱大陸』を作ることになり、取材をさせていただいたのが最初です。でも、それまで僕は先生の本を一冊も読んだことがなかったし、興味もありませんでした。お会いした時に、先生の本の中で僕が読んでおいた方がいいものを推薦してくださいと聞いたくらい(笑)。『夏の終り』と『場所』ねと言われて。それでも全然怒られませんでした」

■死ぬまで私を撮影して

「情熱大陸」に続き、05年にはNHKBSのドキュメンタリー「世界 時の旅人 フランソワーズ・サガン その愛と死/旅人・瀬戸内寂聴」を手がけた。長期間のフランス取材旅行に密着し、すっかり親しくなった。その後もいくつか番組をつくった。全集を送ってもらった時には、会社を1カ月休んで読めるだけの作品を読んだ。

 瀬戸内さんは年の差37歳の中村さんをいつも気にかけた。

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