「中国に帰れ」。筆者も通りを歩いているだけで何度も言われたことがある。アジア系の顔をしているだけで受ける差別がある(撮影/ジャーナリスト・津山恵子)
「中国に帰れ」。筆者も通りを歩いているだけで何度も言われたことがある。アジア系の顔をしているだけで受ける差別がある(撮影/ジャーナリスト・津山恵子)

 米国でアジア系市民に対するヘイトがやまない。とりわけ女性に対する犯罪が後を絶たず、殺人事件まで起きている。犯罪による後遺症は心身ともに深い傷跡を残す。AERA 2022年5月16日号の記事から紹介する。

【写真】アジア系女性の頭を125回以上殴る加害者の防犯カメラの映像はこちら

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 怒りと悔しさが、米ニューヨークのタイムズスクエアに立ち込めていた。スピーカーたちの声が震え、集会に来た多くの人が潤んだ目でスピーチを聞いていた。スピーカーの訴えだ。

「いったん外に出ると、もう安全だと思えない。なぜ私と家族の皆は、住んでいる土地で安全だと思えないのか」

「人種差別は、毒のようなものだ。なぜ私たちだけがその毒を飲まないといけないのか」

 今年3月16日、ニューヨークを含む全米12都市でアジア系女性へのヘイト犯罪に反対する集会が開かれた。

■被害者の約7割が女性

 南部ジョージア州アトランタのマッサージ店やスパが白人男性に次々に銃撃され、死亡した8人のうち6人がアジア系女性だった事件から1年。しかしアジア系市民を標的にしたヘイト犯罪はおさまらず、被害者の7割近くが女性に集中している。

 コンサルティング業のミシェル・アリサ・ゴさん(40)は今年1月、ニューヨークの地下鉄タイムズスクエア駅で、男性に電車の前に突き落とされて即死した。また冒頭の集会の5日前にはアジア系女性(67)がアパートの入り口で、男性に125回以上、殴る蹴るの暴行を受けて重傷を負った。警察の発表によると、前科14犯の男性は被害者に「アジアのメス犬!」と言い、無視されたのちに暴行を始めた。

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